構成比
目を細めて笑う癖。
スキ。
人で溢れる街中を歩きながら、見失うことはないけれど、はぐれてしまいそう。必死に自分の手を伸ばして、前を歩く相手の手に絡ませる。繋いだ反動で少し後ろに引っ張ってしまったようで、二の足を踏んで大輔が振り返る。
「腕じゃなくていいの?」
人の流れで、繋いだ手は弱く感じる。
「いや別に奈々子の好きにすればいいんだけどね?」
分かってるくせに意地悪。それでも、そうやって目を細めて笑われてしまえば、こっちは憎まれ口なんて叩けない。どうする?と畳み掛けられて、出した答えは素直すぎる。
「腕がいいです」
色んな表情を作る顔。
ダイスキ。
「素直でよろしい。お?あれなにやってんだろ?それよりあっちの、おいしそうだよ」
珍しいストリートパフォーマンスを見つけて目を丸くして。私に肩を当ててすれ違って言った人に険しい表情で眉を寄せて。大丈夫?と口に出さず心配げな表情でこっちを見る。少しでも人の少ない道端に進路を変えて、見つけたカフェのケーキの案内に表情を明るくする。
「大輔さん、お腹減ってます?」
「うーん?微妙なところ?奈々子は?」
「小腹は空いてる感じではありますが」
「喉渇いてる?」
「お腹が減ったというよりは、そっちです」
見つけたカフェに誘われるまま店内へ。飲み物を注文して席で待つ。
「さっき大丈夫だった?」
「びっくりしただけだよ。ケガしたわけじゃないし」
「俺の奈々子にケガさせてたら、今頃あいつはこの世にいないものと思え」
「えーっと、どこからツッコめばいいかな?」
「さっき大丈夫だった?から?」
「まさかのそこから?!」
冗談だって、とまた目を細めて、奈々子は厳しいなぁ、と拗ねてみせる。そうやってコロコロ表情を変えられてしまって、コロコロと転がされているのはこっちのほう。
「大輔さんがズルいんです」
「俺ぇ?まさかー」
「自覚ないのも悪いんです」
「それでいいじゃん」
「なんでですか?」
「奈々子が俺から目を離せなくなる」
小野大輔というもの。
アイシテル。
「大輔さんの方が私から目が離せなくなるようにしてあげます」
「楽しみにしとくけど、」
飲み物が運ばれてきて、一度口を閉じる。お互い喉を潤してから、大輔さんが続き
をと口を開く。
「俺はすでに奈々子のものになっちゃってると思うんだよな」
小野大輔というもの。
必要不可欠。
fin
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