*あい
涙目になったのをバレないように、少し俯いた頭に、柔らかく、手を置かれた。
「大丈夫」
子供じゃない、と言おうかとしたけど、止めた。緩やかに伝わってくる熱に、安心した。
「あのね、」
「うん」
「泣いてないんだよ?」
「そうね」
少し、顔を上げる。穏やかな笑顔が見える。
「別に弱くないし」
「そうね」
可愛くないことを言ってる自覚は、あるけど。
「甘えたいだけなんだ?」
茶化してるように言われた事に、そうだよ、と素直に頷く。上目遣いに目を合わせれば、茶化した本人が照れている。
「ばぁーか」
「…お好きなように」
「好き」
「ちょっ?!」
慌てる真にもう一度抱きついて、深呼吸。
「すき」
抱きついたままで喋った声は小さい上に、篭ってる。でも、それでも、しっかり伝わる。
「もちろん俺も奈々子を愛してますよ」
「愛しちゃってますか」
「愛しちゃってます」
グリグリと頭を擦り付けるように、強めに押せば、あっけなくバランスを崩して床に倒れこんだ。
「奈々子ちゃん?」
「なんでしょう?」
「前言撤回はしないけど、さすがにこれは危ないでしょ」
「真なら大丈夫」
馬乗りになったまま、もう一度、大丈夫でしょう?と繰り返せば、上半身を起こした真の手が伸びてきた。その手に目元を撫でられて、なんだろうと首を傾げる。
「うちに来るなり駆け寄って抱きついてきて」
じっと真を見て続きを促す。
「目元赤いよ?」
ああ、押し倒したことを遠回りに仕返されているような。
「いいの。私、強いんだから」
「…そうね」
ぎゅっと抱き込まれて、耳に息が当たる。
「そうだけど、男としてはと頼っちゃってほしいわけよ」
わかる?と背中を撫でられる。
「だから、甘えてるの」
言外に頼ってないと言われ、心外だと態度で示してみせる。甘えつくようなキスをしてみせる。
「真は耳が赤いよ?」
「奈々子に勝てる気がしないのはなんでだろうな」
服を引っ張って、顔を寄せて、今度は額にキス。
「それは私を愛しちゃってるからでしょ?」
「そうかもね」
そしてきっと、甘える私を甘やかしちゃうからでしょう。
fin
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