*よゆう?



電車待ちをしていて、やって来た電車のドアの端、人が降りてくる気配、携帯に落としていた視線を気紛れで持ち上げた。

「あ、」

出た声、聞こえた声はどちらのものなのか、本人ですら周囲のざわめきで区別はつかない。

「なんで拓篤?」
「いや、奈々子こそなんで?」

電車から降りてきた彼氏。乗り損ねた電車は無情にもドアを閉め、次の駅を目指していった。ホームの柱に掛かる駅名を慌てて確認すると、拓篤も同じ行動をしているのが視界に映る。

「………なんで奈々子がいんの?」
「えっと、帰り、道?」

びっくりすぎる偶然に、二人して固まる。

「あ、あー、乗り換え駅だっけ?」
「う、うん。拓篤は?」
「俺も帰り道、だけど」
「あ、そ、そっか」

ぎこちないのは久しぶりにあったから。これだけ会わなかったのは初めてで、落ち着け心臓!

「あー俺んち来る?」
「掃除しに?」
「片しに」
「しょうがないから行ってあげる」
「恩に着ます」

はい、と差し出された手に、自分の手を絡める。

「にしてもビビった」
「私もだよ。まさか仕事帰りで拓篤に会えるなんて思わなかったし」
「終わんの遅くなんじゃなかった?」
「予想外。直しがないとこんなに早く進むもんだなぁーって」
「そっちのが予想外」
「なんで?」
「奈々子がトチんないなんて」
「失礼な」

隣のホームへと移る。

「いつ振り?」
「大振り」
「今ボケはいらないから」
「拓篤が冷たい」
「なんでそうなる」
「倦怠期だ」
「極端過ぎだ」
「冗談も通じなくなったし」
「今の俺のツッコミは全て無視か」
「あーやっぱり拓篤大好き」
「俺の何を今どこで再確認したんだよ」
「え、見た目?」
「会話関係ねぇ!」

やって来た電車に乗り込んで、目的地で下車。

「拓篤、なにか喋ってよ」
「さっきさんざん喋った」
「もっと」

いきなりの沈黙にどうしたらいいかわからなくて。

「奈々子?」
「喋るついでに、こっちも見ないでくれると助かるんだけどな」
「んー?」
「だから、こっち向かないで」

歩きながらも外れない視線をどうにかしようと、拓篤の頬に手を添えて強引に向きを変えさせる。

「もしかするとさ」

玄関の前。ガチャリと鍵を開けた拓篤がのんびりと話す。

「久しぶりだから、意識しすぎちゃってる?」

先に中に入って、玄関の鍵を掛けてみる。緊張じゃなくて、意識しすぎてる?鍵開けてよ、なんて聞こえてくるけど、今そんな余裕はありません。意識しすぎて、るよ。自分はどれだけ拓篤が好きなのさ。それにそれに、

「鍵、持ってるくせに!」
「家で待ってるお嫁さんにあけてもらう、ってなんかいいじゃん」

その余裕が腹立つ、と怒ってみながら、鍵を開けてドアも開けてみれば抱きしめられた。伝わってきた鼓動がやたらと早くて。許してしまった。


*fin*





- 83 -

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -