酔っ払い



*保村真*

「だいじょぶ?」

問い掛けられて、ちょっと必死に頷く。

「我慢してるでしょ?」
「真さんの気っ、のせいです」
「…へぇー?」

だって久しぶりに会ったのに、寝るとか、そんな。

「つっても奈々子、お酒強くないでしょーに」
「だって真しゃんが」
「しゃん?」
「さん」
「まったく」
「え?」

伸ばされた手。あっとう間に世界が傾いていく。

「少ししたら、ちゃんと起こしたげるから」
「うぅー」
「いい子だから」
「でも、」

なんて言ってる間にも、落ちてくる瞼。

「俺の膝枕なんて激レアよ?」

そんなことないよ、なんていう声すら出ないで。ほんの少しの、おやすみなさい。



*中村悠一*

「お前はバカかっ!」

聞こえてきた怒声に威嚇をしてみる。

「お前は…」

勝った、勝った、のか?勝利の余韻に浸りつつ、再びグラスの中の金色を飲み込もうとした、そのはずなのに、手の中のグラスはどのタイミングで奪われたのか。

「ゆーいちぃ?」
「奈々子、アレは睨んでるのか?誘ってるのか?」

んん?

「誘ってるっていうことなら遠慮はしないが」

不意に言葉を途切った悠一に、問答無用で押し倒された。びっくりしたのも束の間に、バサリと投げ付けられたのは、タオルケット?

「酒抜けるまで大人しくしてろ」
「…はぁーい」



*吉野裕行*

「うまい?」

問われて、飲みながらも頷いてみる。

「わっかんねー」
「それは裕行が飲ん兵衛じゃないから」
「つーか、奈々子酔うことあんの?」
「ない、かな」
「マジかよ」

一口、と伸ばされた手にグラスを渡す。本当に一口で満足したらしく、程なく戻ってきた。

「な、一回酔ってみ?」
「え?」

なにを言い出すか。裕行をマジマジと見たら、マジマジと見返されて、慌てて俯く。今の一瞬で、どう移動してきたのか、裕行が肩に腕を回してきた。

「酔ったらイタズラしてやるから」

酔ってるのは裕行に違いない!



*宮田幸季*

はい、もう一杯。と、注がれたグラスを見て、ややげんなり。ニコニコ顔で注いできた相手を見て、もう苛々。

「はい、宮田幸季くん」
「はい」
「まだ飲めと?」
「うん!酔い潰れちゃってよ」
「なに笑顔で元気よく言っちゃってんの!?」

裏にいろいろありそう過ぎて怖い。

「えーだってそのほうが楽そうだし」
「楽?!え、ちょっ、なにが楽?!」
「それはもう、色々?」

色々?色々ってなにさ。

「幸季くん?」
「なに、奈々子ちゃん。聞きたい?」

全開の笑顔。勝ちたくはない。

「私、今日はもう飲むの止めるね」



*森田成一*

「まぁまぁまぁまぁ」
「いやいやいやいや」

グラスに注ぎ込もうと伸ばした腕を掴まれた。その手のひんやりとした、なんと気持ちのいいこと!

「おい、酔っ払い」

怒ってる声じゃなーい。から、オッケー!

「なぁに?私の酒が飲めないと?」

詰め寄れば、成一は息を詰めた。

「なんで奈々子はそうおっさんみたいな酔い方なんだよ…」

半分独り言みたいな音量で呟かれたのを、しっかりキャッチ。にっこり、と笑ってみて成一の膝に乗ってみる。首に腕を回して、さらに距離を詰めて。

「成一も一緒に飲も?」

首もついでに傾げてみれば、成一はがくりとうなだれて。

「この酔っ払い」

憎々しげに呟いた。







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