*まさかの*
ふと横を見て、やっぱり前を向く。
「どうしたんだよ?」
一瞬だったのに、隣にはバレていた。繋いだ手をなんとなく、僅かに揺らしてみる。
「子供か?」
しょうがないな、といった風に笑われた。やっぱり、と思う。さっきからしてるけど、こんなにふんわりとした笑い方なんて、できたっけ?
「どうした?」
「なんでもないよ?」
これ以上気にされても、なんて言えばわからないから困る。なにか、話題を探したほうがいい?
「奈々子?」
「本当になんでもないって。あ、あれおいしそう」
「あからさまな逸らし方すぎる」
いつもは、あんなふんわりとした、じゃなくて、もっと朗らか?豪快?に笑うから。だから、きっと、それに、あてられた。
「ところで、ご飯はいかように?」
「大輔のよきに計らえ」
「おおせのままに。って、お前なぁー」
あぁ、またその顔。
「奈々子?やっぱどうした?顔赤いぞ」
そんなはずはない!騙されて慌てたりとかしない、なんて誓う間に、繋いでる反対の手が伸びてきた。
「熱はない、よな。外食止めて帰るか?」
「大丈夫だって!それに、おいしいの食べたいよ!」
「だから子供か?」
だからはこっちの台詞だよ。その笑顔、なんで今日に限って余計に気になるんだろう?もしかして、普段の笑い方と同じじゃないの?違う、と思うから気になるだけ?
「イタリアンな気分だけどいい?奈々子?」
「うっうん!」
「やっぱりなんかおかしくない?」
「大輔の気のせいだよ?」
「いや、絶対そんなことない」
「なにその自信!」
久しぶりに今日一日中使って会ってるから?
「間違いなくさっきから挙動不審」
「どこが?」
「チラチラと見てきたり。なにか誤魔化そうとしたり」
「そんなこと」
「ほら」
言われて、手を引かれて、いい感じの街の視界から隠れてしまう位置。
「なに?」
「また」
「だから、なに?」
「俺を見ないでしょ?」
そんなことない、とは言えない。だって、実際に今、顔を上げられない。なんで今更こんなに意識してるんだろう?
「まさか、さっきから顔赤いのとかって、」
言うな、言うな、と呪文のように胸の中唱えてみる。その間に相手は、こっちの耳元に口を寄せてきていて。
「惚れ直しちゃった?」
悔しいやら、恥ずかしいやら、なんとやら。勢いよく顔をあげて大輔を睨んでみて。
「そうだよ、ばか!」
強気で言い切ってみたら、しっかりと抱きしめられた。
*fin*
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