ちゅういほう



不意に可愛いものが目に飛び込んできた。あれは近づかなければなるまい。と、一歩を踏み出した瞬間。

「勇ましくも迷子になろうとするな」

迷子確実と決めつけた、なんとも失礼な言葉と共に、フードを引っばられた。

「最初から決めてかかるのはよくないですよ、中村くん」
「事実だろ。いまだかつて俺から離れたお前が迷子にならなかった試しは、ない」
「だって、あの可愛いコが呼んでる!」

訴えてもフードから手は外れない。

「あれを、かわいいと?」
「おうとも」

フードを掴んでいる手とは恐らく逆の手で、頭を掴まれた。フードの方は、やっぱり離されていないから、間違いはないと思うけど。けど、けども、だがしかし!

「痛い。痛いよ?なんか頭ミシミシいってる気がするんだけど?」
「間違いなく、気のせいだ」
「いや、痛いよ?気のせいじゃないっぽいよ?」
「あれをかわいいと言うぐらいの感覚だろ。気のせいだ」
「いやいやいやいや、ていうか、本当に痛いんですけど?!」

自分の目にうっすらと涙が浮かんだところで、ようやく頭から手が外れてくれた。

「確認するが」

やたらめったらと真面目な顔で、悠一が少し屈んで視線を近づけてきた。

「お前がかわいいと言ったのはアレか?」

そういって指差された先にあるのは間違いなく目当ての物。

「そうっ!あの出っ歯といい、左右非対称な頭のフォルムといい、体と目のファンシーさとのギャップといい、完璧じゃない!」
「奈々子、お前、病院行っとくか?」
「失礼な!」
「世間一般のかわいい物好きさんに失礼なんだよ!」

一気に捲くし立てられたけど、そこで二人して首を傾げる。今、今なにかが引っかかったような。悠一の言葉を頭の中で反芻してみる。

「奈々子、流せ。今一瞬の引っかかりはさらっと水に流せ」
「むり。あとちょっとで掴めるから。水の流れから救いだせるから」
「救わなくていい。たぶんそいつはそのまま流されていったほうが幸せになれる」
「…かわいい物好き、さん?」

しまった、という顔の悠一に、こっちは一仕事やり遂げた海猿のような達成感。

「忘れろ」
「絶対、無理」
「いいから忘れろ」
「限りなく無理」

もう一度口を開きかけた悠一に先制攻撃。

「かわいい。かわいいよ、悠一」

結局口は開かれず、そっぽを向かれてしまったけども、そんなこと問題ない。

「今日のザ・ベストオブかわいいものは悠一に決定だね」

かすかに見てとれる横顔には不本意だというのがありありとしてる。それでも、いつの間にか繋がれていた手はそのままで、うれしくなる。はしゃいで楽しい、から、ほんわりとなっていく。そんなこっちの変化に気付いたのか、一瞬こっちを見て、また顔を背けて。

「んな顔する奈々子のほうが」

微かに聞き取れた部分と消えてしまった語尾。さて、熱くなった頬をどうしてくれよう。



*fin*




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