ゆめきぶん



じっと台本を読んでる背中。そっと横に並んでみる。真剣に文字を追ってる横顔を見る。少し、ほんの少しだけ、こっちを捕らえた視線。すぐに手元へと戻ってく。
せっかく彼女の家に来たというのに、とは思ったけれど、台本の厚さに免じてあげよう。

「………休憩?」
「ああ」

長く息を吐いて、台本に栞をして机に投げた。上を向いて、また深呼吸。これは自分の家でもそうとう根を詰めてるな。
キッチンに立って、お湯を沸かす。その間にカップとポットの用意。葉は…ミントとカモミールをブレンド。ハートの砂糖を2つ。沸いたお湯をカップとポットに。それぞれが温まったらお湯は捨てて。ポットに葉を入れてお湯をもう一度注ぐ。蓋をして。
チラリと達央のいる方を覗けば、興味津々といった目と合った。

「もうちょっと待ってね?」

愛情たっぷりに作ってるから、と笑顔をプラス。

「待てない」

偉そうに言い切って手招きなんてしてくれる。砂時計がまだ落ち切らないのを確認。テコテコと近づいて、正面から向き合って、達央の膝に座るように腰を落とす。
額に、鼻筋に、頬に、唇に、キス。
腰に回った達央の手の力が強くなりかけて、慌てて立ち上がる。

「なんだよ」
「紅茶。せっかく美味しいの入れてるんだから」

キッチンに戻れば、タイミング良く砂時計が落ち切った。

「奈々子、まだ?」
「せっかち」
「煽ったのはお前」

愛情一杯に出来上がったカモミールティーを渡す。

「どう?」
「うまい」
「でしょ?」

下に敷いていたクッションをずるずると、枕代わりにしそうになってる。それでも、なんとか飲み続けてる。寝ればいいのに。
中身を飲み干されたカップ。

「おかわり、いる?」
「いや、サンキュ」

達央の手の中から、安全なテーブルの上に。
だいぶボンヤリとした目でこっちを見るのを………押し倒す。

「奈々子?!」
「はいはーい。いい子に寝ましょうねー」
「ガキか、俺は」

とか言いながら、瞼落ちてきてるし。

「自分の眠さの限界わからないんじゃ、子供と変わらないでしょ?」

ギリギリ、というぐらいに瞼を持ち上げた達央に、腕を引っ張られ、覆いかぶさるように、自分まで寝る羽目に。

「達央?」
「おやすみのキスは?」

鼻を摘んでやる。強くはない。軽く、かるく。

「甘えん坊」
「桜ん坊」
「意味わかんないし」

笑いながら、キス。1回、2回、3回。触れては離れて。

「おやすみ」
「うん。おやすみ、達央」

カモミールの匂いに誘われて、甘い夢を見てね。



fin





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