自ら罠に?
「みっ?!」
変な声が出た、というより、出てしまった。出させてくれた相手を睨めば、肩を震わせて、なんだか必死に笑いを噛み殺してる。おもむろに手を伸ばして、その頬を引っ張る。強めに引っ張り直してから離すと、若干赤くなってる。いい気味だ、と思いながら強気に出てみる。
「悪いのはどっち?」
「………ごめん」
「はい、よろしい」
そうやって許しながら距離を取る。間違いなく、さっきのあの手つきは危ない。
「奈々子?なんで距離取んの?」
「……………さあ」
背中を撫でてきた浩輔の手つきがヤバかった、なんて本音を言ってしまえば、それこそ私終わる気がするんだよね、うん。
「奈々子」
それでも近づいてこようとする体を、自分の両手を必死に突っ張ねて押し留める。
「なんで?」
「なんでも」
「さっきのちゃんと謝ったじゃん?」
「謝る前の間はそのメリットを考えてか?」
「………まさかぁ」
こっちだってまさかの正解だよ、正解したくはなかったよ!腕一本の距離を腕一本半の距離に広げる。
「奈々子、だからなんで距離とんの?」
「なんか今、離れなさいってお告げがあった気がする」
「そんなのなかったって」
さらに距離は広がり腕二本分。
「奈々子?」
「距離は広いにこしたことはないってお告げがね」
「また?」
クスクスと面白そうに笑う相手を警戒しながら部屋を見渡す。対角線にして約3メートル。
「ごめんって、奈々子」
さっきはうっかり騙されたけど、次はない!じっと見て警戒していれば、クスクス笑いを止めて、浩輔はただニッコリと口を開いた。
「焦らしちゃったりして、激しいのがいいの?」
あれ?うっかり袋小路にはまった?
fin
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