*お互いに*
見られている、というよりかは凝視されている。気になる、と言うとでも思ったら大間違い!
「奈々子、そろそろ観るのを止めませんか?」
画面の中にフェードアウトしていた銀髪が再登場。っていうか、やっぱり土方さんかなぁ?
「中井さんいいなぁ…」
「なっ?!」
「………カッコイイ」
「奈々子!」
うるさい、とも声には出すまい。というかDVD最高。
『はぁ。その通りでさぁ』
鈴村さんかわいい…。
『銀ちゃん、どーするアル?』
釘宮さんもかわいい……かわいいのが、いっぱい。
「奈々子?恍惚の表情になってますよ?」
あ、智和オンリー喋りになっちゃった。
「なんでそこで表情を曇らせる?!」
「だって、あれ、まんま智和じゃん」
「さすがにあんな性格じゃあ、ないですが?」
「誰も性格が、とは言ってない」
「じゃあ何がですか?」
「………声」
「俺じゃないと言われたらどうしようもなくなりますが」
わかってない、と内心でふて腐れる。
「なにふて腐れているんですか?」
外面にまで出てしまっていたらしい。
テレビに向かって座っている真後ろに智和が座ってきた。
「まだ観ますか?」
画面に釘漬け、しているつもり。
「ああ、今回このシーンが好きなんですよ」
テレビから聞こえる音に夢中、のつもり。智和がテレビに向かって伸ばした手が、そのまま抱きしめてくる。
「そろそろ観るの止めませんか?」
「やだ」
首に熱。ここまで接近されると身動き出来なくなるのを知られてることが悔しい。
「奈々子?」
「は、離れろ」
「なんで今更照れるんですか?」
「むかつく…」
「と、言われても」
キュッとした鈍い痛みが首を刺す。
「赤ってなんでこんなに映えるんでしょうね」
バカ、と怒りたいのに、咄嗟に声が出せない。流れっぱなしのDVDは、音が出ていないように感じてしまう。
「まだ観ますか?」
「耳元でしゃべ、」
回されていた手が再び動いて、目を塞いでくる。
「テレビやCDからいかに俺の声が聞こえてきても、『俺』じゃないんです」
ああ、もう智和の声しか聞こえない。
「声にまでそんな可愛く嫉妬してくれて」
さっきのこと、分かってたんじゃん!
「それに、こんな近くにいて平気でいるはずがないでしょう」
そうだね。聞こえてくる音のテンポはこんなに早い。
「ここにいるのに、わざわざアニメ観る必要ありません」
強く言い切られた台詞に何度も首を振るしかなくなった。
fin
- 86 -