違うんです
*福山 潤*
「別れよう」
「は?」
「……………」
「え、本気?」
呆けた相手に何も言わずにいて、返ってきた言葉に小さく噴出す。
「冗談だよ」
「そ…だよね」
「大丈夫?潤くん」
「ダメかも」
「あら珍しい」
こんな冗談に引っかかるとは正直思ってなかったし、ここまで落ち込まれるとも思ってなかった。振りなのか?と警戒したけど、滅茶苦茶に悔しそうな表情をしているのを見れば、本人も予定外の反応だったらしい。
「奈々子にしてやられるとか…あーしまった」
もっと度肝抜く仕返しするから、と宣言された。
*杉田智和*
「別れよう」
「そうですか」
「ちょ、その冷めた反応ヒドくない?!」
「冗談で別れよう、なんて俺は言えないですよ」
「………ごめんなさい」
智和のこれでもかという威圧に負けて、素直に謝る。あれ?予定では取り乱した智和に冗談だよ、って笑うはずだったのに。
「大体、笑うのを我慢しているのがバレバレなんです」
「え?嘘?!おっかしーな、完璧っだと思ったのに」
ため息をつかれた。呆れられるほど表情に出てた?
「俺がどれだけ奈々子を愛してると思ってるんですか」
それ以上に、仕事で言うような砂糖たっぷりの台詞を言われるとは思ってもみませんでした。
*吉野裕行*
「別れよう」
言葉に出して、自分も、裕行さんも無言。無言のまま額に手を当てられた。今まで見たことのないぐらい胡乱気な目つきで見られた。熱はないし平気です、と心の中で答えながら、泣きそうです。
「別れちゃ、別れちゃ嫌です」
うー、と我慢してみたものの、あぁ、なんて虚弱な意思なんだろう。ぽろぽろと涙が溢れる。
「っあー!本気にしてねーから泣くなっつーの!」
裕行さんの服の袖でゴシゴシと目元を拭われる。
「どーせ昨日観た映画だろ。つーかだから後編もさっさと観ちまえっつったのに。ばか奈々子」
「前編が悲恋の形で終わるなんて思ってなかったんです」
「ばーか」
苦笑交じりに言われて、頬にキスをもらって涙が止まった。
*谷山紀章*
「別れよう」
「ふざてんの?」
不意に昨日聴いた歌の印象的な歌詞が口から出てきてしまった。それに間髪を入れずに凄まれた。
「じゃなくて、ね?あ、あの、紀章くん?違うんだよ?」
「へー。なにが?」
にーっこりと問いかけてきてるけど、目が笑ってませんから!
「紀章くんとの関係を終わらせようとかいうつもりじゃなくてね、」
「奈々子?それは当たり前だろ」
「だから、そうじゃなくて、昨日聴いてた歌でね、」
「でも、例え歌の歌詞だとしても、俺に向かって言うわけ?」
紀章くんに向かって言いたかったわけでもなくて、と反論しようとした言葉は空気になって相手の口内に吸い込まれていった。
*小野大輔*
「別れよう」
唐突に頭に浮かんだ言葉を発してみた。相手はただただポカーンとした表情を浮かべてる。なんの反応もないから、自分が何を言ったのか改めて脳内で再生させてみる。
「………ごめん、なんでもない」
「あ、そ、そう?」
危ない。今生の別れを期すとこだった。
「ところで、今の何事か聞いてもいい?」
「大輔見てたらなんとなく」
「…え?奈々子ちゃん?」
あ、固まった。さらにちょっと涙目?
「冗談です。多分昨日読んだ小説のラスト」
「あぁ…よりにもよって悲恋の」
二人の間に微妙な沈黙。
「……大好きだよ?大輔」
「遅いって!」
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