食うか食われるか



「いーやーだ」

全身全霊で拒否する。

「意外に病み付きになるかもしれないし」
「だが断る」

嫌なものは嫌。

「奈々子、そう言わずに」
「三回回ってワンと言え。そしたら考えないこともない」
「それ考えるだけだよな?」
「もちろん答えはいいえです」
「既に考える余地なしじゃん!」

いいから食べてみろ、と口元まで持ってこられて、必死で顔を背ける。立ち上がろうにも、横に逃げようにも、既に逃げ道は封鎖されてる。通り抜けできません!

「奈々子。はい、あーん」
「キモい」
「ヒドい」

なんとか逃げるスペースを、と押してみるけど、中途半端な体制の癖にフラリともしない。

「しょーがないな」

妙に嬉しそうな顔で、こっちに向かって突き出していたブツを、自分の口の中に。諦めた、のか?

「…!んんっ!んー!」

ゆっくりと笑顔で離れていく体を思い切りよく突き飛ばす。

「口移しとか口移しとか口移しとか信じらんない!」
「なんだよー。でも食えたでしょ?」
「信じらんない」
「えーなんでよ?」
「食えた食えないの問題じゃないのは確かだし!」

食べたご褒美に、と用意されていた大好物をさっさと口に詰める。美味しい、これ正解。

「奈々子」

名前を呼ばれて、再び顔を向ける。だから自分無防備すぎるから!

「んっ、ふあっ…ん、…」

っていうか、あれ?いつも以上に気合い入れてません?苦しいんですけど!呼吸、下手なの知ってるくせに!

「はぁっ、んっ」

最後に、と唇を舐められて、ようやく解放。

「奈々子の声は甘いよな」

いやいや、それ以上にあなたのほうが甘い声出してますから。今まさに。

「奈々子?」
「ち、力、入らないんですけど?」

もう帰る!と立ち上がってやろうと思ったのに。

「ベッドまで運ぼうか?」
「は?なんでベッド?」
「あれ?このままここがいい?」

ちょっと待て。ただ、嫌いな食べ物なくそうぜ!ってことだったはず。おかしくない?この流れおかしくない?

「大輔?」
「大好き?」
「合ってるようで違う!」
「そこは正解って言ってよ」
「無体働かれて誰が言うか!」

食事を始める時点で、横に座られたのを放置したのがまずかった。立ち上がった大輔に軽々抱き上げられ、降ろされたはベッド。

「ちょっ、ん!…んぅ……はっ、ん」

せめてもの抵抗で、辛うじて自由な手で大輔の胸を押すように叩く。それなのに、相手は笑顔で、

「好き嫌いなくす手伝い、したんだから」

それに、折角なんだからキスだけってのもね。なんて言い放った。
あぁ、もう!



fin





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