オン・ザ・ベッド
*神谷浩史*
ベッドの上でぼんやりと座っている横顔を眺める。服を着ろ、せめて下着と上は着てくれ、せめて下着を、どうしてもならタオルケットを巻きつけろ、と繰り返した後だ。頑なに嫌だとしか言わない相手に、次の一手があるはずもなく、裸にタオルケットを羽織る、ということで妥協をしてしまった。
「ねぇねぇ、浩史」
「……なんだよ、奈々子」
「私見てて楽しい?」
「楽しくはない。けど、他に見るもんもないだろ」
「TVだってあるし、本もあるし、空は星が出てるのに?」
「………ウルサイ」
それとも私の今の格好見てて、またムラムラきちゃったぁ?なんて、人をからかっているのが楽しいです、と隠さんばかりの声音に、分かって言ってんのか?と苦々しく言葉を吐き出しながらクスクス笑う唇を塞いで、再び二人重なり合うように倒れこんだ。
*杉田智和*
どこで間違えた?と自分の行動を焦って振り返ってみても、なにも間違えてはいないじゃないか!だというのに、相手は出てくるどころか、なおも硬く毛布を握り締め中に閉じこもってしまった。
「暑く、ないか?」
返事はない。
「なぁ、奈々子。そろそろ出てきたらどうだ?」
返事はない。
「ただいつ見ても食べたくなる身体だと言っただけだろ?」
「その部分について己の胸に手を当ててよく考えろっ!」
「別段おかしくはないと思うが?」
「っ!?バカ智和!!」
とりあえず最終手段として毛布の上から身体を撫でてみることにした。
*吉野裕行*
「服知らない?」
服だけじゃなくて下着もだろ、と心の中で訂正をかける。勝手に俺の服を着たりはせずに、そうやって聞いてくることを想定していたのだから。
「洗濯機に入れたんじゃね?」
「あ」
気づいた所で聞こえてくるのは洗濯機の回っている音。
「うー…じゃあ裕行服借して」
ブランケットに包まったのを手招きして、無防備に近づいてきたから、ソファーにだらしなく座ったままブランケットの隙間から手を差し込む。
「あ、ぁっ!ひ、裕行っ」
「奈々子…それだと煽ってるっつーの」
幸いにして今日は休日。
*鳥海浩輔*
突っ張っている腕が細かく震えている。上からの力と下からの力は、重力の関係からいっても下からのほうが不利に決まっているのに、諦める気はないらしい。それでも、この状況に飽きてきたから、軽く力を増やす。それだけで二人の距離はゼロ。
「浩輔!ちょっと、ね、今日始まったばっかり、」
「へーそうなの?」
「馬鹿言ってないで、離れ」
「むーり。だって俺の中ではGOサイン出てるし?」
「それは浩輔基準でし
戯れ言を吐くならもっと甘い言葉がいい、と頭の片隅で考えながら口を塞ぐ。寝起きの身体は情中のように熱い。丁度いいじゃないか、と口端を吊り上げる。
「奈々子はいくら愛しても足りないんだよ」
抵抗らしい抵抗のできなくなった相手の身体に手を伸ばした。
*鈴村健一*
手に触れるものを、もっともっとと引き寄せれば、起きたの?と嬉しそうな声が聞こえた。薄っすらと目を開ければ、おはよう、と綺麗な笑顔が見えた。それだけで意識ははっきりしたし、あぁ、お互い裸なのだったということまで意識してしまった。
「健一?まだ寝ぼけてる?」
「おいしそう」
「え?」
鎖骨やら胸やらには赤い印がいくつも散ってる。俺のやなーと思ってみれば、おいしそうと感じたものは我慢しなくていいじゃないか、と思ってしまった。そうと決まれば、だ。横に転がり、奈々子を下に。目が合って、にーっこりと笑って見せる。ウソ?と聞こえた気がしたけど、気にしない。
「いただきます」
礼儀ただしく言葉を口にして、また赤い印を増やすことになる行為に、今日という時間が過ぎていく。
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