ごはん違い



のよーん、と二人掛けソファーに横になる。頭ははみ出して、膝を折り曲げて足は収める。眠いかも、と無意識に声を出せば、ベランダにいた相手が、珍しいとでもいうように片眉を上げた。

「なんでベランダにいるの?」
「あーちょっとね。熱さまし?」

時計を見れば、いつの間にか夕方5時を越していた。デートして、先にシャワーを使ってもらって、自分は今まさに上がったばかり。

「それにしても奈々子が眠いなんて珍しいじゃん」
「真といるといつもは緊張してるんだよね」
「男冥利に尽きるね」

なんで?と思いながら目を閉じる。スン、と鼻から息を吸い込めば、自分の匂いに交じって微かに別の匂いがした。耳を澄ませば、距離があるのに自分のものではない息遣いまで聞こえる。

「普段ならしないのに」
「ん?」
「真がいるの変な感じ」
「お初にお招きいただきありがとうございます」

妙に畏まった返事に吹き出す。なんでそんな?とツッコめば、俺の家もまだ招いてないからさ、と繋がっているのか曖昧な返答。

「奈々子の手料理だ!って喜んでんですけどねぇ」
「動くの勿体ない感じ」

それでも必死に体を起こして、ソファーの上をズレて座り直す。真を手招きで呼ぶ。隣に座った真の膝を枕に。

「腹減ってんだけど?」
「あと5分」
「はいはい」

横向きになって、ぎゅっとしがみつく。寝かし就けるように、ポムポムとたたかれていたお腹の上で、真の手が硬直。

「あの、奈々子さん」
「なんでしょうか、真さん」
「ご飯作ってくれんじゃないの?」

無言で返せば、軽いため息が聞こえた。お腹の上の手が移動して、今度は髪を梳く。

「俺、腹減ってんだけど?」

ほんの少し首を捻って表情を窺い見れば、さも困ったという口調だったのに、口端を上げて目は細まってる。途端に跳ね上がる自分の心音に気づかない振りで。

「そんなに、お腹、減ってるの?」

動揺が声に出た。笑いを噛み締めた声で返される。

「奈々子がんなことするから余計にね」

髪を梳く手は悪戯をするように、何回かに1回、わざと耳元を掬っていく。

「お腹空かせちゃうようなことした記憶ないけど?」
「そ?でも俺はお腹減ったよ?」

いくら自分が鈍かろうと、ここまで前面に押し出されば分かる。譲る気のない口調。逃げることは許されない。

「奈々子のこと好き過ぎて、腹減り過ぎて、限界なんだよね」
覚悟を決める。深く、深く、息を吸う。

「5分たったけど?」
「どうぞ召し上がれ」

自分に勝るも劣らぬ真の心音に、後押しされた気がした。



fin





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