ぐるぐる
朝から雨が降ってる。空は黒みを帯びた雲が隙間なく広がっていて、止みそうな気配はない。そういえば、昨夜のテレビの天気予報で一日雨だと言っていたことを、うつらと思い出した。同時に心底今日が休みで良かったと思う。雨脚は穏やかになることなく、それ以上に激しさを増している。なんといっても、窓に当たる雨粒が、並々ならない音を立てている。
「私も今日休む」
「ん?いいの?」
「今起きぬけに高熱出しました、って連絡してきたとこ」
用意周到な、と苦笑いをすれば、肩を竦めて返された。
「その辺り緩い職場だから」
「にしては初めてじゃない?休むなんて」
「ふふっ。電話対応でてくれた同僚にすっごい心配されちゃった」
笑って見せているだろう顔色は、正反対に暗い。奈々子本人は無意識なのかもしれない。夜に無理をさせた記憶はない。なにかあった?ストレートに聞くことには、なんだか躊躇いがある。
「奈々子の好きな紅茶でもいれようか」
台所で事を済ましている間、奈々子は部屋の境目に立ったまま、一度ゆっくり瞬きをして眉間を片手で押さえていた。相当キてるなぁ、なんて勝手に読み取って、濃く煎れた紅茶にミルクを多めに入れる。
「どうぞ」
「ありがと」
カップを手渡して座れば、背中合わせに奈々子が擦り寄ってきた。二人何も言わずに、暫く紅茶を啜る音だけが支配する。
「午後になって、雨弱くなったら車だしてどこか買い物でも行こうか」
「お店の中ならさ、雨なんて関係ないしさ」
言外に気分転換を提案すれば、なんだか得体の知れない唸り声が聞こえて、少し腰を浮かしかけた。奈々子ちゃんの声、だよね?
「やっぱり渉は私には勿体ないのかな…」
度肝を抜かれるというか、呆気に取られるというか、えーと?
「言われたの。というか、笑われた」
「だ、誰に?」
「……他の方々」
「それはそうだろうね。じゃなくて、」
「負けたくないから言わない」
冷める前に飲んじゃわなきゃな、紅茶。
「釣り合うとか、釣り合わないとか、関係ないもん」
「うん」
「私が渉を好きで、渉が私を大好きで、それでいいじゃん」
「う、うん」
そもそも奈々子の仕事場でなんでそんな話題がでるんだろ。違う仕事に就いてて、なんで釣り合わないって。
「ねぇ奈々子」
「なに?」
二人同時に飲み干したらしく、同時にカップをテーブルに置く。
「なんで僕のこと」
「惚気たら何故か皆さん調べてきた」
話してすっきりしたらしい奈々子は着替えに行って。どこからどうつっこんでいいのか、僕は困惑し始めてしまった。
fin
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