匿すココロ


少しの風でも変化が起これば消えてしまう。だから、そっと、ゆっくりと。元々終わりの見えていた、執着のない恋だったのだと言い聞かせて。ほんの少しでも痛くないように。揺らめいて、いつ消えるか分からないけど。今だけは。ただ一つ。幸せになってくれればいい、と嘘までついて。愚かさと滑稽さで作り合わせた心で接して。
本当の心はいつだって痛い。


「今日どーする?俺暇だよー」
「んーっと私も暇。でもどっか行きたいとこある?」
「ないねぇ。ある?」
「右に同じ〜」

天井を仰ぐ。重力に習って見えたのは背後にある寝室に繋がるドアだった。弄っていたライターをテーブルの上に投げ置く。煙草を吸う気には、なれなかった。背もたれに伸ばしていた腕を邪魔とばかりに払われた。いつの間に移動してきたのか、すぐ横にいる。
手は届いているのに、心が遠い。

「そういえば昨日デートだったみたいじゃん?楽しかった?」

なんでもないように装って声を出す。肯定されたら

「楽しかった!大成功かもっ!」

終わりだ。

「良かったじゃん」

風は吹いてしまった。嬉しそうな顔が一瞬曇ったように見えた。

「でも、まだ告られたわけではないんだよね。ビミョー」
「そうなの?」
「っていうか、あっち、また本命いるっぽいんだけど」
「また?奈々子んっと運ないね」

繋ぎの恋を本気の恋愛にしようとかないの?
二人で顔を見合わせるわけでもなく、テレビがついてるわけでもなく、正面を眺める。交わらない視線は平行線を辿って。視線の先にあるのはユラユラと陽炎が揺れてる。

「鳥海はまだ彼女作らないの?」
「んーそうだねぇー」

否定するわけでもなく、曖昧に。まるで今の環境に似ているかもしれない。付き合っているけど恋人ではない。いっそ自分で吹き消してしまえば楽なのかもしれない。けれどそのためには未練が残り過ぎている。

「出掛けようか」
「どこに?」
「買い物。フラフラとね」
「めっずらしい。いつも目的ない買い物嫌がるのに」
「たまには、ねー」

もう少しだけ猶予があるのなら、どんな珍しいことだってする。諦めの悪いと言われても、どれだけ諦めが悪くなっても。どうしても伝えたい一言も伝わってないのだから。

スキダヨ

聞こえない声で言葉を紡いで立ち上がった。



fin


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