人生、そう上手くはいかない。



等と呟きながら盛大な溜息を吐き俯くヤス。
何があったかは知らないが、兎に角お悩みの様子。
よしよしと頭を撫でてやるが、垂れた頭はあがって来ない。

そんな状況にどうしたものかと私も小さく息を吐いた。
正直、些か面倒ではあるが、此は優しい言葉の一つでも掛けてあげるのが友人の役目というものなのだろう。


「大丈夫だよ。きっと何とかなるって!」


何の根拠も確証も無い無責任な言葉。でも、只が私なりの励まし方というやつで。そんな私を充分過ぎる程理解しているヤスは、ソーダネ等と漏らし苦笑いを浮かべる。



「何事もやってみなきゃ、デスカ?」
「そーだね。そーいう事だね。当たって見事に砕けちまえ!ってとこですよ、保村さん。」
「砕けんのかよ………」
「うん。もう粉砕。」
「粉々ですか。」
「大丈夫。ヤスの骨は私が拾ってやるから。」


心配すんなと勢いよく背中を叩く。何だか苦しそうに息を詰まらせてたけど、敢えてスルー。
其でも少しは復活の兆しを見せるヤスに、自然と笑みが零れた。


「あーた、本っ当に頼もしいわ。」
「イイ友人を持ったねぇ、保村さん。」
「あー、ソーデスネ。」
「心が篭ってない。」
「いやいや、ガチに思ってますよ。…………うん、本当に。幸せ者です。俺は。」


そうだ。と、小さな音で呟く。
刹那、何かを考えるような仕種を見せて。だが、一節置いた後、突如真剣な眼差しを向けられた。



「ヤス?」

「うん。あの、さ。イイ友人も、本当に有り難いんだけど。もっと、こう近い存在でいてくれたら、更に幸せかな……なんて、思って…たり。」


「―――――――は?」



突然何を言い出すのやら。ヤスのはっきりしない物言いに、私は疑問府を頭上に散りばめる。
んーっ、と首を捻って思考していると其を察したヤスが、悪かったと詫びを入れてくる。


「ごめんごめん。ちゃんと言う、ちゃんと言うから、そんな悩まないで下さい。」
「う?うん。」


では、と改まって向かい合う。しっかり視線が重なって。ヤスが少し距離を詰めてきて。
何だ、何だ?
今までにない至近距離に心拍数がどっとあがった。


「好き、なんですよ。出来ればずっと、俺の側に居て欲しい。」



幻聴では、冗談ではない事を、ヤスの赤い顔が物語っている。

だが、私といえば。ヤスの大告白を受けて、何だ其を言う為に悩んでいたのかと告白どうこうより、先ずその事に納得した。

さあ、お次は返答だ。
今まで友人として接して来た男が、突然の「好きです」発言。
困らない訳がない。
だが、未だ頬を赤く染め不安げに私の返答を待っているヤスが可愛いとか思ってしまうのは、恋愛感情によるものなのか。


まぁ何にしろ。今、確かな事は一つ。


「……そだね。やっぱり、ヤスの骨を拾うのは、私の役目だもんな!」



にっこり笑って答えれば、さっきまでの赤ら顔が色を変えて、今度は青に染まった。
カメレオン………


「――――っ!!やっぱ砕けんのかよー!?」


頭を抱えて大袈裟に落胆する様を見せるヤスは、やっぱり可愛く思えて。
そんなヤスを今まで以上に振り回してやろうと心に決めた。

私とヤスの始まりの日。









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