友達は多い方がいい…
些細な事は気にしない方がいい…
あまり喧嘩はしない方がいい…
彼氏の携帯なんて…
チェックしない方が…
絶対にいい…
◇日常茶飯事◇
馬鹿みたいだ…
いや
みたいじゃない馬鹿だ。
馬鹿を通り越して迷惑だ。
自分でもどうにかしてると思う。
わかってる…わかってるけど…
軽快なメロディーを奏でる二つ折り携帯電話を、反対方向に折ってやりたい衝動にかられる。
あーイライラする…
「真ー!携帯鳴ってるよぉ!!」
お風呂場に向かって叫んでも、返ってくるのは途切れないシャワーの音だけ。
「出ちゃってもいーんですかぁ?」
聞こえるわけもないのに、もう一度叫んで、今だうるさく鳴っている携帯に視線を戻す。
「しつこいなぁ…」
私の知らない女の名前を、チカチカと点灯させる、忌ま忌ましい携帯電話。
「誰なのよ…こいつは」
もぉー嫌だ。
クッションに顔を埋めて、音を遮断した。
信じてないわけじゃないけど、不安は際限なく広がっていって、思考はマイナスな方にばっかり進んでいく。
浮気してるんじゃないでしょうね……っていうか…
「お前とは遊びだし…」
とか言われたらどうしよう…
うわぁ…立ち直れない。
ぎゅっと目を閉じて、耳を塞ぐと、諦めたように、音が止んで、ばたんっとドアの開く音が遠くに聞こえた。
「あれ…奈々子寝てんの?」
タオルを頭から被って、冷蔵庫のドアを開ける真が、ソファーに俯せになっている私に、話し掛ける。
「……ってたよ」
「えっ?」
「携帯鳴ってたよ!!」
真は、何怒ってんだよ?
と首を捻って、机の上の携帯を拾い上げると、カチカチと少しいじって、またすぐに机に戻した。
「かけ直さなくていいの?」
起き上がって、クッションを抱きしめる。
「電話…ちゃんと返してあげなよ」
じっと彼を睨むと、
「……別に。急ぎの電話じゃねーし」
肩を竦めて、視線をそらされた。
「だってしつこく鳴ってたよ?真と話したいのかもしれないじゃん?」
何言ってんだろ…私。
「それとも…私の前じゃ出来ないとか?」
「お前何言ってんの?いい加減にしないと怒るぞ?」
「……だって」
真が悪い訳じゃないのに、口を衝いて出る言葉を止められない。
真が他の人と話してるのなんて見たくないのに…
こんな事言いたくないのに…
抱きしめたクッションが、じんわりと濡れた。
「奈々子…泣いてんの」
延ばされた手を払って、立ち上がる。
「……頭…冷やしてくる」
一緒にると、私はもっとひどい事を言う。
きっと真を傷つけてしまうから…
「奈々子っ」
払ったはずの手が、再び伸びて腕を掴まれる。
「どこ行くんだよ?」
「…どこだっていいじゃん!離してよっ」
強く手を振っても、彼の力には敵わなくて、簡単に抱き寄せられた。
「よくないよ。」
子供をあやすように、ぽんぽんと背中を撫でられる。
「そう簡単に離してやんない。ごめんね?」
降ってくる声が優しくて、また瞼が熱くなった。
「ちゃんと…怒ってよ。ひどい事ばっか言って、悪いの私じゃん」
私の髪に頬を寄せて、楽しそうに彼が呟く。
「ばーか」
ば、ばか?!
「怒んないよ。だって奈々子のあれはヤキモチでしょ?」
少し強い力で抱きしめられて、距離が縮まる。
「さっきの電話…事務所の先輩からだよ。だから、しかとしたって問題無し。まぁ付き合いも大事だけどさ……今は奈々子といる方が何倍も大事だから…」
耳元で囁かれる声がくすぐったくて、恥ずかしくって…彼の胸に顔を埋めた。
「だから泣くなって…」
「泣いてないもん!」
嘘ばっかり。と彼が笑って、大きな手が私の涙を拭う。
「せっかく風呂入ったのに…」
洗い立てのシャツは、涙で濡れてしまっている。
「ごめん…」
シャツを撫でる私を、楽しそうに眺めて、
「奈々子…」
「なに?」
上を向いた拍子に、チュッと音をたてて口付けられた。
「一緒に風呂入り直す?」
にやりと笑う彼に、みるみる赤くなってしまった私は、慌てて彼の胸に顔を戻して
「奈々子ちゃーん」
「し、知らない!」
ゴシゴシと彼のシャツに顔を擦りつけて、ぎゅっと背中に腕を回した。
「奈々子…好きだよ」
ここぞとばかりに、甘い言葉で私をからかう彼を睨みつつ…
うれしくて頬が緩んでしまう私は、
やっぱり馬鹿かもしれない。
◇End◇
オマケ→
おまけ
一緒に入るのは絶対にやだ!と真っ赤な顔で脱衣所に駆け出した恋人の顔を思い出して、頬が緩む。
なんであいつは、あんなに可愛いんだろう…なに食ったらあぁなるんだ?
ごろりとソファーの上で、横になると、机の上の携帯電話が、低い唸り声をあげて、小刻みに震えている。
奈々子の携帯…
「おーい!携帯鳴ってんぞーって聞こえるわけないか」
何とは無しに手に取れば、チカチカと点滅している見知った名前に、思わず、通話ボタンを押していた。
「もしもし…」
「……なんでお前が出んだよ!奈々子は?」
「ってそれはこっちの台詞でしょ!なんでよっちんが奈々子の番号知ってんすか!」
「あっ?共演者だからだよ!ねぇそんな事より奈々子は?」
「風呂っすよ!ふーろっ!」
「風呂?まじで?あぁーじゃあさっ風呂から出たらいつもの店に来て!って言ってくんない?」
「はぁ?行きませんよ!」
「お前じゃねーよ!奈々子だよ」
「だから!奈々子を行かせませんよ!はい。それじゃーお疲れ様です」
一方的に電話を切って、大きく溜息をつく。
ったく…油断も隙もありゃしない。
ばたんとドアが開く音がして、ひょこりと奈々子が顔をだした。
「どうしたの…怖い顔して…」
不思議そうに首を捻る彼女を睨んで、
「奈々子…そこに座りなさい…」
一難去ってまた一難
◇オチナシ◇
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