羞恥ぷれい



「なんでこうなるかな」

口に出した言葉は幸いにして周囲には聞こえなかったようで、怪訝な表情を向けられることはなかった。手にした携帯を開いてみれども、だからといって連絡が入るわけでもない。まして、時間が進むなんて以っての外。

「入場し損ねるなんて…」

とんだ失態をしでかしたもんだ。中はもう始まってる時間だから、こっちから連絡を入れても気付きはしないだろう。

「どうしたものか」

警備スタッフに言った所で無駄…なんだろうな。実際さっき試して無駄だったんだけどね!
よりによって今日?!よりによって今日寝坊しますか、自分?!チケットが無駄になったし、何より会えなかったっていう…。怒られる。怒られるフラグ立ったよこれ。
ダメ元でまた裏口に戻ってみる。………え?ちょ、え?いちゃいけない人がいるんですけど?!

「奈々子!」
「なっ!?いやいやいやスタッフさん困ってらっしゃるから!」
「と思うならさっさと来い!」

慌てて駆け寄れば、腕を掴まれて強制連行。すっごい周りわたわたしてるんですけど…。

「ん、ね、紀章くん!い、いいの?」
「なにが?」
「だって今もう開演してて、」
「お前が来ないからっ」

ん?なんか、心なしか、赤いぞ?

「あーくそっ」
「ね、紀章。もしかして、」
「気付いても言うな!というより遅刻したことを反省しろ!」

でも、でもじゃない!だって、だってでもない!そんなやり取りを数回繰り返しながら楽屋に連れ込まれてしまった。

「関係者じゃないよ?」
「知るか」

ばたばたとした足音が近付いてきて、怒られると首を竦めた。

「きーやん!」
「まーくん。なに?迎え?」
「そう。って奈々子ちゃんおは」
「う、うん」

慌ただしく舞台に戻る二人をここで見送るのか、と思えば、また腕を引かれて走る。なんで?!

「つーか結局充電できなかったし……いいか?そこで大人しくしてろよ!」

連れて来られた舞台袖。マイク付けて颯爽と表に出て行く紀章くん。やっぱりねー的に微笑ましく受け入れてくださるスタッフさんの視線が、怒られるより恐怖!
あーでも…うーあー……甘い…台詞が、甘い………。
袖に引っ込んできた紀章くんにまた引っ張られて、隅の隅に。空いてるイスに座った紀章くんに、こっちは立ったまま抱きしめられ、現在進行形。他のキャストさんも、スタッフさんも見て見ぬ振りだよ。突っ込んで!

「奈々子。奈々子、奈々子」
「きっ聞こえてます!聞こえてます!」
「来んの遅いんだよ」

反省してます。そして、こんな恥ずかしいことになるなら、二度と遅刻なんてするものか!



fin


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