ぼんやり



*鈴木達央*

ボーッとしながら駅の階段を降りてたら、段を踏み外した。これは絶対に痛いと、目をつむっても、痛みはこない。

「セーフ」
「へ?」

恐る恐る目を開ければ、待ち合わせ相手が腕を掴んでくれていた。

「達央…」

ありがとう、と続けようとして、ニヤリと笑った達央に少し逃げたくなる。そんな私お構いなし。

「俺がいて良かったよな?奈々子」

わざわざ、低音を使ってくれなくてもいい。むしろなんでタイミング良くいるの?言いたいことが出来たのに。

「お礼してくれるよな?今、ここで」

声なんて出せずに恥ずかしさと戦うのに必死になってしまった。



*吉野裕行*

ボーッとしながらキッチンで飲み物を準備してたら、横から伸びてきた手に強引に飲み物のパックを奪われた。

「どんだけ注ぐ気だよ」

見ればコップは満タン。むしろ表面張力で保ってる。

「裕行さん?」
「ったく。奈々子の返事ねーから見に来てみれば」

裕行さんのコップにパックの中身が移された。

「俺の分なくなるとこだったんじゃね?」
「うぅ…すいません」
「いーけど何ボーッとしてたんだよ。悩み事でもあんの?」
「平、平気」
「あっそ」

フイと横を向いた顔が拗ねていたから、腕を掴んで、

「考えてたの、裕行さんのことですから」



*谷山紀章*

ボーッとしながらボタンを押せば、聞こえてきたボイスにあわあわ。このタイミングで登場?!見られてないよね?と振り返りかけて、

「なに挙動不振してんの?」

掛けられた声にあわあわ。

「ききききき紀章くん?」
「うん」
「別、に…変なんてそんな」

ニンマリ笑った紀章くんが横に来てチョコンとしゃがむ。慌てて画面をセーブ画面にしても時既に遅し。

「へー俺の声にトキめいちゃった?」

図星をさされて、あわあわ。

「奈々子はそんなに俺の声が好きかー」
「紀章くんが好きなの!」

あ、あれ?



*羽多野渉*

ボーッとしながら歩いていれば、横を歩く人に額を抑えられて、歩みが止まった。

「僕が一緒だし、ちょっとくらいぼんやりしてても大丈夫だけどね?」

流石に危ないよ?なんて続けられて、顔を上げてみれば、正面には寸胴な電信柱という幹が1本。

「これは、痛いね」

眉間に力を入れてまで痛さをリアルに想像してしまったら、やっぱりそれ相当の声も出ていたらしい。苦笑気味な渉くんに手を引かれて、止まった歩みを進める。

「渉くん?」
「これなら奈々子がぼんやりしてても大丈夫でしょ?」

返事の代わりに、繋いだ手に力を込めれば、渉くんがそれはもう嬉しそうな顔をしてくれた。



*鈴村健一*

ボーッとしながらベッドの上に座っていれば、いきなりの侵入者。飛びつかれることになって、受け止め切れずに後ろに倒れ込んだ。

「健一!」
「奈々子、びっくりした?」
「もー。したした。すっごいびっくりだよ」

にっこにこと押し倒されてることにびっくりというか、まったくそんな雰囲気なく本気の抱き枕状態にびっくり?あー、でも、なんか。

「健一いい匂いする」
「今日のご飯は俺特製チャーハン!」

起き上がった健一に引っ張り起こしてもらう。そうか、上手くできたからテンション高いのか。…可愛いなぁ。







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