執事パロ



*中村悠一*

再び無意識に撫で始めていた手を頭の上から外してやって、代わりに力一杯抱きしめてやった。

「お嬢様、そろそろ」

言われなくても分かってる。そして私が分かってるのを分かってる。だから、続きの言葉なんて存在しない。

「悠一……」
「ただの使用人ごとき名前で呼ぶのはお止めください、と注意するのもこれで最後でしょうね」
「………私にとっては大事な幼馴染なんだから」
「お嬢様」
「ふふっ、悠一に敬語って、やっぱり違和感」
「………悪かったな」

言えば、悩んで悩んで、それでも私を選んでくれるだろうから、だから、言わないの。

幼馴染というだけでなく、中村悠一という貴方を愛してました。

「奈々子お嬢様、幸せになってください」
「ありがとう!」

これでサヨナラ。



*吉野裕行*

ああ、これでもうあの屋敷に帰ることはないんだ。泣きたくなった時に胸を貸してくれる人のところには、眠れなくて話し相手をしてくれる人のところには、嬉しかった事を話すと笑顔で聞いてくれる人のところには、帰れないんだ。

「誓いますか?」

神父さんが聞いてる。応えなくちゃ、応えなくちゃいけないのに、うまく口が動いてない気がするんだよ。

「誓いますか?」

ゆっくりと神父さんが繰り返してくれる。ここで迷っちゃいけないのに。涙が溢れそうになった時、教会の扉が音を立てて開いて、駆け込んできた人。

「奈々子!」

手を取られて、教会から逃げ出した。

「ひ、裕行…」
「旦那様と奥様には、了承…取ってっから安心しろ」

涙が溢れた。悲しい?ううん、嬉しい!



*保村 真*

片手にボストンバックが一つ。荷物はこれで十分。親の決めた結婚なんて、はいそうですか、なんて了承すると思ったら大間違いなんだから!気合を入れて部屋のドアを開けた、ら。

「!いっ!!??」
「あ」

額を押さえて廊下にしゃがみ込んだ相手。手間が省けた。

「おっ、お嬢様?こんな夜分に……どこ…」
「そういう真はこんな夜分に私の部屋の前でなにを?」
「奥様に言われて、奈々子お嬢様の見張りを」

でドアが開いたのに振り向いたら、外開きのドアにぶつかったと。それにしてもお母様、詰めが甘いわね。

「行くわよ」

挙動不審に陥ってる真の手を握ると案外素直に着いてきた。もっと渋られると思ったのに。ごめんなさいお父様。娘は、愛してる人と駆け落ちします!



*安元洋貴*

ドアの向こうでひっきりなしに呼ばれてる。それでも今は無理。

「お嬢様…あの」
「なに?洋貴」
「なんで俺は押し倒されているんでしょう?」

襟首を持ち上げると、ぐえっという声が聞こえたけど、この際構ってられない。時間がないんだから。

「今すぐ私を攫いなさい」
「……………はい?」

ボロボロと涙が出てくる。こんなはずじゃなかったのに。体を起こした洋貴の膝の上に座る形になりながら、止まらない涙をどうしようかと思っていれば、なにか考え込んでいた洋貴が言葉を発する。

「それは俺の良い様に取っていいんでしょうか?」
「え?」
「とりあえず他の男に嫁がせることしたくないくらいに愛してます、奈々子お嬢様」

誰にも見つからないように屋敷をでないといけませんね、と言うから、嬉しくなって勢いで再び押し倒してしまった。



*鳥海浩輔*

もういない父様母様に代わり、この家を守ってきた。私に優しくしてくれる叔父様の狙いが財産であることは気づいてた。父様の母親違いの叔父様は若く私と一回り程しか違わない。壁際に追いやられ、両腕を取られる。これのどこが脅迫ではないというのだろう。持ち上がった私の婚約話に焦っているのだろう。自分と結婚しないかと、叔父様が必死なのは伝わる。でも、嫌悪感とは別であって。

「い、やっ!!」

横から伸びてきた手が叔父様を私から引き剥がし、腕の中に囲ってくれた。

「申し訳ございませんが、奈々子お嬢様を貴方如きに渡すわけにはゆきません」

凄みに負け、逃げ帰っていく叔父様。カタカタと震える私の肩を抱きなおしてくれる。

「浩輔………」
「ここに」

安心する唯一に安堵のため息を漏らした。





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