食事中失礼
*吉野裕行*
「ふぇ?」
危ない。ちょっとでも今口を開いたら、出来立てホカホカのホットケーキが……出てくる。
「………いい。食い終わってからでいい」
そんなことを言われたら、なぜか急いでしまうもの。結果、
「んくっ?!んー」
「あー!お前バカか?!」
慌てて水を飲むけど足りなくて、同じようにあわあわした裕行さんが自分の水も差し出してくれた。
「あのなー奈々子、食うのやったら時間かかんの自覚あんだろ?」
「んー、ん、……はい」
シュンと項垂れてしまう。あーバカです、そうです。
「ま、いいや。口ん中もうねーな?で、返事は?」
「わ、私も、裕行さん好きです!」
「いい返事。良くデキマシタ」
テーブル越しに身を乗り出した裕行さんに、ほっぺにキスされた。
*櫻井孝宏*
「もひほんはほ」
「………食い終わってからでいいから、俺に分かるように喋れよ」
人が食べ物と格闘してる真っ只中に話し掛けてきたのは孝宏のくせに。横暴。
「なんだよ」
「横暴」
「食い終わった途端それか」
いたっ!デコピンしてきます?!
「そんなことより返事だろ」
「なんか、さっきの撤回して考え直したくなった」
頬を膨らましついでに、プイと孝宏から顔を逸らす。
「奈々子………ベロベロに酔わせてから襲ってやろうか?」
「お付き合い、させてください」
「最初からそうやって素直になればいいんだよ」
伸びてきた手が、くしゃりと頭を撫でていく。でも、誤魔化されたりなんてしない。
「今、脅されたよね、私」
再び額を弾かれた。………孝宏の横暴。………でも、好き。
*鈴村健一*
「んぐっ?!んんっ……ん……んー」
「だ、大丈夫?!」
あたあたと差し出されたコップを受け取って、その中身を一気に煽る。
「間接キス〜」
言われた言葉に、今度は食べ物じゃなくて、飲み物に咽る。
「わ、わ!奈々子?!へ、平気?!」
「はぁ…はぁ……誰の、せい?」
「んー?俺、やな」
「そう、そうだよ!スズのせい!」
「堪忍!やって言いたくなったし」
「T・P・Oって…知ってる?」
「知っとる」
明るくのほほーんと笑われてしまって、これ以上は怒れない。
「その‘好き’って、友だ「恋愛対象として」
珍しく言葉を遮られた。ジッと見てくる目は普段見れないぐらい真剣。
「スズがかっこよく見えるとか、くやしい」
「なんやそれ?」
ケラケラと笑いながら、私が飲み干してしまったグラスの中の氷をスズが頬張った。
*杉田智和*
「ふきゅ?!」
「今、変な声出たよな?」
いつも変な杉田には言われたくない。そう視線に込めたつもりだけど、あっさりと無視された。
「そうか、そんな声を出すほどに奈々子もそう思ってくれていたんだな」
ちっがーう!テーブルに両手を付いて、勢い良く立ち上がる。
「どうした?」
「帰る」
「……まだ、料理残ってるぞ?」
そう言われて、もったいない神様が出てきてしまって、大人しく座りなおす。そして大人しく料理を平らげていく。
「ゆっくり食べろよ?」
「ふひははひゃべはいほ?」
「ああ、お前に見惚れて食べるの忘れてただけだ」
盛大に、咽た。
「大丈夫か?!」
「やっぱり帰る!」
再び勢い良く立ち上がって、今度こそ帰る。その背中に投げられる言葉。
「返事、考えておいてくれ」
私も、と言ってしまいたいけど、そんなことを言えば一生に渡って振り回される気もして。考えすぎた結果、知恵熱が出た。
*保村 真*
「むぅっ?!」
「あ、大丈夫?つか、このタイミングの俺のせい?」
喉に詰まった食物たちと戦ってるうちに、一人どんどん話を進めていってしまう相手の足を踏んでみた。
「いっ?!や、だから悪かったって!」
違う風に捉えられてしまった。失敗。今度は必死に首を横に振ってみる。
「違う、の?」
首を縦に振る。
「……とりあえず、食っちゃっていいよ?」
大人しくそうする。口の中がすようやくすっきりして、声を出す。
「真くんのばか」
「な、なんで?」
「だって、だって…私から言おうと思ってたのに、い、言っちゃう…うー」
我慢してたのに、やっぱりダメだった。
「ちょ、なぜ泣く?!」
「くやしいー!」
「はぁ?あーわりぃ、奈々子。ほら、な?」
困りきった真くんに、さっきのなかったことにして言ってやる。
「好きです、結婚してください」
「逆プロポーズ?!」
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