やっぱヤダ



*野島健児*

「やっぱヤダ!」
「けっ健児さん?」

急に引っ張られたせいで、首がガクリと揺れた。それなりに痛い。服の裾を引っ張ってきた相手を振り返れば、なぜか膝を抱えて座り込んでる。

「やっぱヤダ、ってたかがすぐそこのコンビニ行くだけじゃないですか」
「だってさ、だって、奈々子とせっかく一緒にいるのに」

フイと横向くそれは、上から見下ろしている身としては、可愛らしくてしょうがないのです。

「わかりました。じゃ、健児さんも一緒に行きましょう?」
「はぁい」

まったく、どっちが年下なのやら。



*神谷浩史*

「やっぱヤダ」
「は?」
「だって…うー…ヤダ」
「今更。んなことで俺が止めると思うのか?」
「思…わない」
「なら諦めろ」

意地悪、ドSと口に出しても、相手は随分な余裕顔。

「奈々子のそうやって困って泣きそうな顔が見たくてやってんだよ」
「ひっ浩史のバカ!サディスト!」
「ああ、その通りだな」

予告なく正面でカメラのフラッシュが光る。

「ああ、そうだ。お前はどんな顔でも可愛いよ」

その一言だけで全部を許しちゃいけないとわかっているのに。



*鈴村健一*

「やっぱヤダ!」
「もー。健一?ダメだよ?」
「だって嫌いやもん、こいつ」

そう言って健一が指差すお皿の端には牡蠣のフライ達。しょうがない、と食べさせてみようとして、失敗。

「どうしてもヤダ?」

強く頷かれた。やっぱりしょうがない。許してあげよう。

「そのかわり、今度私の苦手なの、食べてね?」
「任せといてや、奈々子!」

あーあ、嬉しそうに笑ってくれちゃって。

「健一わかってないでしょ?」

こっちがどれだけ健一に甘いかなんて。目の前で首を傾げる健一が、なんだかちょっと憎らしい。



*鈴木達央*

「やっぱヤダ」

出たなワガママ坊や。

「達くん」
「やなもんはいやだ」
「でも仕事だし、」
「仕事でもなんでも、お偉いさんがたの接待に奈々子がわざわざ行く必要ないだろ」

秘書でもないのに、と正論を問われて答えに詰まる。まさか、偶然にも向こうの社長さんの息子の好みにストレートらしい、なんて言えやしない。たとえ気に入られようが、達くんを裏切るなんて論外なわけで、断るけども。

「なぁ。行くのかよ?」
「仕事なんだって」
「乗り込んでやる」

どうやら仕事を休む口実を作らなくちゃいけないみたい。



*諏訪部順一*

「やっぱヤダ」
「どうした急に」
「急にじゃないです」

順一さんのお家に初お泊まり!と浮かれた後に待っていたのは、寝る部屋は別だからな、なんてクールな言葉。

「なんで一緒に寝ちゃダメなんですか?」
「悪い大人は我慢出来る自信がありません」
「私なら覚悟できてます!」

そっと抱きしめてはくれる。のに。

「犯罪者にするなよ。まだ良い大人でいさせろ」
「勘違いしてました。私もう20歳です」
「それこそ勘違いだろ、高校生」

ゆっくり離される体に、自分からしがみつく。

「面倒くさいとか、思うようにならないで、くださいね?」
「ならない。だから大人しく別部屋で寝ろよ、奈々子」

泣き落としはまだまだ通用しないみたい。





- 260 -

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -