禁止
*保村 真*
「だぁーから、ダメ!」
「なんで!真のケチ!」
「あのね。いくらなんでも食べ過ぎ。限度ってもんがあるっしょ」
「甘いものに限度なんてない!」
「アンタは小学生かっての!」
「いーやーだー!お菓子!」
だってだって、期間限定のお菓子は今食べとかないと、次いつ食べれるかわからないんだよ!
「しょーがない。奥の手出すか」
「真の奥の手なんて怖くないもん」
「お菓子か俺か。さぁ、奈々子、どっち食いたい?」
二の句を告げれなくなったから、キスをねだって答えを出した。甘い甘い、真がいいの。
*小野大輔*
「ダメです」
「……大輔さんのバカ。バカ。ハンサム」
「……最後おかしくない?」
「どこが?なにが?なんで?」
自分で自分をハンサムと言うには抵抗があるのか、大輔さんがごにょごにょしている間に脱衣所からの逃走を試みる。
「だから、ダメです」
言い聞かせるような声音が背後、頭上から降ってくる。鍵を開けようとした手は今一歩及ばず、重ねられた手にゆっくりと引き戻される。
「奈々子、早く服脱がないと風邪引くよ?」
「じゃあ大輔さんが出てて」
「俺だって風邪引くよ」
一緒に、なんて、覚悟のできるわけがないのに。
*鈴村健一*
「ダメなものはダメ」
「だ、だって健一だってよく行くじゃない!」
「別に俺は打ち上げ行っても問題ないから。でも奈々子はダメ」
「なんで?!」
「知りたい?」
真面目だった顔が笑顔になって。でも声は固いまま。なんとなしに怖くなったけど、負けるものか。
「し、知りたいよ!」
後頭部から勢いよく引き寄せられて、あっさりと健一の胸の中へ。
「こうやって簡単に、」
耳元に掛かる息がくすぐったい。でも離れられない。
「他の男に抱きしめられでもしたら我慢ならない」
私は健一だけのものなのに。
*中村悠一*
「却下」
「……ゅぅぃちのバカ」
「何か言ったか、奈々子?」
「何にも」
別にただ、好きって言ってと告げただけなのに。
「なにしてもダメ?」
「なんでも言うことを聞くか?」
「それは怖いから嫌」
「なら俺だって言わない」
顔を伺いながら、もにょりと訊いてみる。
「なんでも言うこと聞くって言ったら?」
「ゆっくり服脱げ」
「訊いてみただけです。スミマセン」
言葉が欲しいのに、とため息をついた途端。
「好き。より、愛してる。だったら言ってやる」
悠一のバカ。心臓が、壊れてしまいそう。
*吉野裕行*
「止めろ」
「なんでよ。裕行の横暴」
「はぁ?それは奈々子だろ」
「だって別に私からキスしたっていいじゃない!」
「止めろ」
まったくもって、制止の意味がわからない。
「なんでダメなの?」
「ダメだとは言ってないだろ」
「止めろもダメも似たようなものじゃん!」
ぐっと顔を近づける。唇が今にも触れそうな距離なのに、相手は目を閉じてくれない。
「目、閉じてよ」
自分は泣くんじゃないか、というところで、ようやく理由を告げられた。
「今だって我慢の限界だってのに、お前からキスとか、マジ無理だから」
二人して顔を赤くして。我慢なんてしなくていいのに、愛しいアナタ。
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