寝てるし
*市来光弘*
机に向かったまま寝てる。その体は揺らぎもしないで、器用。背中合わせに座って、そのまま後ろに体重をかけていく。
「ん、んん…」
あ、なんか苦しそう。起きるかな。預けていた体重を軽くする。
「ん……え、」
あ、起きた。
「おはよう、ミツ」
「おはよう、奈々子。あーもしかして暇させた?」
「光弘の寝顔見てたから平気だったけど」
「恥ずかしいな」
「全然そんなこと思ってないくせに」
「バレた?」
声色をまったく変えないくせに。しれっと何を言ってるんだか。
*杉田智和*
「寝てるし。」
変に器用だ、とでもいった方がいいのか。
「起きろー」
起きてたら起きてたで、憎まれ口を叩いてやるけど。
「寝てると寂しいんだぞー」
ん?少し口角が上がった?
「…起きてるでしょ、智和」
「………」
「寝た振り決め込むつもりなら、容赦は、しない」
「…なぁ、奈々子。それは恋人に言うような言葉じゃ、」
「だーまーれ」
黙らせた智和の膝を枕に寝転ぶ。
「……ら、…え」
「悪い。聞こえなかったんだが」
ぐっと智和の胸元を引っ張って、顔を近づけさせる。
「寂しかったんだから、構え」
緩んだ顔を見たら、宣言を撤回したくなった。
*羽多野渉*
あれ?寝ちゃってる?座ったまま器用に寝てるし。
「渉ー?」
正面に回って、自分も座って顔を覗き込む。もう一度名前を呼ぶ。ついでにジッと見てみる。
「ん……ん、え?」
すごい勢いで体を引かれた。
「え、え?」
「おはよう、渉」
「奈々子ちゃん…お、はよう」
「渉がぐっすりだったから。何してようかな、って」
「僕見てたの?」
うんうん、と頷く。俯いた渉は耳まで真っ赤。
「恥ずかしい」
「渉の照れ屋さん」
あ、またさらに真っ赤になった。可愛い、とは言わないでおいてあげよう。
*鈴木達央*
座ったまま寝る、なんて器用なこと、達にできたんだ…。正面からジリジリと近づく。
「完璧、寝て、る?」
見てるだけじゃ物足りなくて、そっと手を伸ばしたら。
「きゃあ!」
「お、マシな叫び方すんじゃん」
「た、た、達、起きて?」
「寝込み襲うとはなぁ、奈々子」
自分から手を伸ばしたはずが、逆に引っ張られた。互いの顔は見えない。ただ、耳元で相手の吐息を含んだ声が聞こえてる。
「は、離し、て」
「何を?」
「何って、」
「好きだから触れたいんだろ?」
普段なら自分が言うセリフを取られて。達央が言うと、なんか違うっ!
*寺島拓篤*
「拓篤?たーくま。拓篤くーん?」
返事の変わりに聞こえてくるのは寝息。器用に、座ったまま寝てる。ごろりと前に仰向けで寝転んで、拓篤の顔を見上げる。
「拓篤」
パチリと目が開いた。目が合った。二人して硬直。
「おは、よう」
「ん。おはよ」
えーと。
「起き上がったほうがいい?」
「とりあえず、そのままで。何してた?」
「拓篤見てた」
「奈々子ちゃんったら、はーずか。」
「嘘ついてる顔してる」
笑顔の癖して。
「おかげで起きたらすぐに顔ぶれ見れたからさぁ」
言われて逆に照れてしまった。
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