まさかの全員揃い
呼ばれて居酒屋に行ってみれば───座敷席に案内されてメンバーを確認してすぐ、その場にがっくりと崩れ落ちた。
「奈々子ちゃん、お疲れー?」
「いえ、岸尾さん、お気遣いなく」
なんとか立ち直りつつ、席を作ってくれたヤスくんの隣に腰を下ろす。
「リーダー…メンバー足りなくない?」
「リーダー言わない。残り二人は遅れてくる」
「そうですか……」
でもヤスくんがいるのに。相方不在ってなんだか違和感。そうしたら健くんも同じことを思ったらしく、素直に口に出していた。
「そんないつでも一緒なわけじゃないって」
「そうなの?」
「奈々子ちゃんまで言う?!」
「言ってみたくて」
「やっぱり奈々子もそう思うたよな?」
なー、と可愛らしく首を傾げて健くんに同意を求められた。自分が同意するより早く、なぜか岸尾だいすけが同じく首を傾げて同意した。なんでダイサクだよ、とリーダーからのツッコミが入る。それはそうと、
「リーダーの隣。つまり私の正面で沈みに沈んでるこの人、大丈夫?」
いい加減、触れてあげなくてはいけない気がする。顔が見えないけど、とりあえず広樹さんっぽいこの人。
「優しいな、奈々子は」
「なにしみじみしてるのリーダー。この人、どうしたの?」
身を乗り出して手を伸ばして、頭をポンポン撫でてみる。
「奈々子ちゃん優しいよ。あーもー好き」
台詞とはまったく噛み合わない、ローテンションの投げ遣りな口調で告白された。頭を撫で続けながら、一体なにがあったのか首を傾げる。苦笑してるリーダーとヤスくんはいいとして、僕も俺もと騒いでいるダイサクと健くんは無視して。
「お待たせー。あ、すいません、マヨネーズっぽいものもらえます?」
「来て早々何頼んでるんですか」
「なに奈々子、いーことしてんじゃん。俺にもしてよ」
「鳥さんみたいに下心ある人にはしないから」
そう言い返して視線を横に逸らして、あ。と口を開けて固まる。ギギギ、と音が鳴るように撫で続けていた手を離す。そのタイミングを誤ることなく、近づいてきた人物がそのまま広樹さんの頭を───叩いた。
「でっ!?!」
まず広樹さんの悲鳴。うわぁー、とダイサクと健くんがハモる。あーあ、とリーダーと鳥さんがハモる。
「さすがにそれはないでしょうよ、あーたは」
ヤスくんだけが本人に向かって言い放つも、
「奈々子はオレの。ちょっかいとか、止めてくんない?」
腕を強く引かれて、ヤスくんとの間が広がる。そこに問題児は座り込む。
「ヤス、ハゲ!なんでお前は止めてねーんだよ」
「奈々子ちゃん呼び出しておいて、遅刻してくるよっちんが悪いんでしょーが」
そのまま全員が何もなかったかのように話を続けて広げていく。なんでこんな時だけ大人対応するんですか……。床の上で握り締められた手が、裕の独占欲を表しているようで、まだ呑んでいないのに、体が熱を帯びていく気がした。
fin
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