泣き虫天の邪鬼
毎回毎回…怒ろうにも怒れない。許してしまう。なんでだろう、と首を捻ったら、
「愛でしょ愛」
なにが良くて私はコイツと付き合ってるんだろう?そう呟いたら、
「そこはホラ。俺だから」
浮気してやる。憎まれ口を叩いた。あろうことか鼻で笑われ、
「俺は奈々子一筋だけど?」
本気で浮気するんだから!と諏訪さんと二人で呑めば、諏訪さんになんだかいろいろ諭された上に、迎えに来ないし。その旨伝えれば、
「リーダー相手に浮気できるわけないじゃん」
どこまでも憎らしい。
「嫌い。浩輔嫌い。大っ嫌い」
「あらら泣きそう?」
「誰があんたの前で泣くもんか」
「ざぁーんねん」
ムカつく。ムカつくムカつく、ムカつく。──なんで?
「俺にどうしてほしい?」
「知らなっ、私…じゃ、ないっ…」
「そう?」
違う違う!
「じゃ、オレらしく、ふてぶてしいままでいい?」
嫌っ!嫌だよぅ。とうとう関切って涙が溢れ出す。
「嫉妬してよ、引き留めてよ、離さないで、不安になるからっ、離れたくない…好き、大好き…だから、どんなでも浩輔じゃなきゃやだぁー」
子供みたいだ。泣いて騒いで喚いて駄々こねて。グシグシと鼻をすすりながら、涙の止まらない目を擦る。
「あぁあぁ。擦んないの」
浩輔が洗面所に消えてく。なんだろう、と思えば、手にタオルと氷嚢を持ってきた。目の前に差し出されて、素直に受け取る。あぁ、いつもこうだ。気付かないうちに優しさが用意されてた。気付いたら尚更涙が止まらない。
「言っとくけど、これから俺以外の野郎と二人で呑みなんて、いくら相手がリーダーでも許さないからな?」
頷く。
「前も言ったけど、俺は奈々子一途だよ?」
頷く。
知ってたんだよ。
「せっかくさぁ、浮気しないで頑張ってんだからさ。もっと早く言えよ」
もっと…早く?
「な、に…を?」
「離さないで。っていうのなどなど」
「わかってたの?」
思わず涙も引っ込んだ。それぐらい衝撃事実。
「言われるのを今か今かと待ってたりしたんだけど」
穴があったら入りたい。掘ってでも入りたい。今更だろうけど。
「やー、やたら俺の反応見るから気付かれたいのかと思ってたんだけど?ま、これからは離してやらないから。覚悟しとけば?」
ニヤニヤ顔に対抗して強気で返す。
「…望むところだ」
fin
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