愛し愛され再確認
最近良く仕事が被る。同期ということもあったし、一つ上の相手はそれほど身構えもしないし、優しかった。つまりは仲良くなるのにたいした時間を要さなかったわけである。そこまで冷静を装って考え、人の声で現実に引き戻された。
「奈々子ちゃん?どっかいってる?」
「渉くん……ただいま」
おかえり、と苦笑される。そうだ、意識を旅行に出してる場合じゃなかった。
「愛され足りない……」
テーブルに力なく伏せる。お酒で火照った顔に、テーブルの温度が気持ちいい。もう一度くぐもった声で同じセリフを繰り返す。
「わーがーまーまー」
間延びした言い方で返事があった。
「だって、優しいよ?優しいけど基本が放置だし」
「なら今から会いに行ってみればわかるよ。ね?」
さっさと会計を頼んでしまった渉くんに半額を渡して、急かされるままに会いにいくことにした。
「よう」
突然の押し掛けにも関わらず、かなり冷静に迎え入れられた。
「飯は?」
「んー?孝宏は?」
「食べた」
「よかった。私も渉くんと食べて来ちゃったんだ」
「ふーん。うまかった?」
「うん」
読んでいたらしい小説を開いて目を落とす孝宏。渉くんの嘘つき。愛されてるかなんて、わかんないじゃん。
「なぁ」
小説を読んでいるはずの孝宏から声があがる。
「なぁに?」
「羽多野と仲良いよな」
「うん。話合うから楽しいんだよね」
「あっそ」
すっぱりと会話を打ち切られた。孝宏自身から話を振ってきたことに、自分で会話を打ち切るなんて初めてかもしれない。
「孝宏?」
「なに?奈々子」
「…怒ってる?」
「誰が?なにに?なんで?」
それがわかるのであれば、こんな質問はしない。
「なぁ」
「うん」
「羽多野が好きなわけ?」
ああ、そうか。わかってしまえば、いや、なんともわかりやすい。
「孝宏くん、嫉妬なわけですか」
「奈々子ちゃん、ワザとなわけ?」
「まさか!まさかのまさかだよ!」
首に腕を回して、ギュウギュウに抱きつく。小説が折れるとか、腕が痛いとか、聞こえないことにする。
「嫉妬とか、なんか嬉しいかも」
「俺はゴメンだね。奈々子バーカ」
「拗ねないの」
「奈々子なんか、勝手に羽多野と仲良くしてればいい」
久しぶりに見るお子ちゃま態度。その態度が嫉妬で拗ねているのだというのに可愛くて。
「孝宏をもっと構えってことだよね、それ」
否定されないからきっと正解。少し眉の寄った眉間にキスを落とせば、
「奈々子、愛してるから」
渉くんの言うとおり、愛されてるんだと、確信できてしまった。
fin
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