ベタ惚れ
付き合い始めて3ヶ月。世間一般さまでは3の頃が別れの危機が増えるころだとかいうけども、そんな心配はなさそうです。付き合い始めて3ヶ月。蜜を求めて彷徨う蝶のようだと、一時でも思ったことを撤回っしなきゃいけなさそうです。
「浩輔さん。ここからコンビニなんて3分程度で行けるのに」
飲み物が切れていて、残念ながら麦茶パックもない。だからすぐそこのコンビニまで行ってくるから、と出ようとしたら、呼び止められた。
「んー、でも時間が時間だし?」
「確かに10時を回りはしましたけど」
もちろん夜のだけど、でもまだ11時にはなってない。それでも財布を持って立ち上がってしまった浩輔さんを再び座らせる事はできずに、一緒に行くことにした。
ついたコンビニで、カゴを持つのはもちろん浩輔さんで、飲み物を適当に選らぶのは私の役目になって。なのに支払いは浩輔さんで。ビニール袋を手にぶら下げるのも、もちろん浩輔さん。………浩輔さんの役目、多くない?
「浩輔さん」
「なにー?」
あっという間に帰ってきた自室で、浩輔さんに詰め寄る。なぜか浩輔さんは嬉しそうな顔をした。
「私、なんにもしてないです。浩輔さん、疲れちゃいます」
「そぉ?」
「そもそも、私のこと大事にしすぎです」
「重い?」
「そうじゃないです!……けど」
そう、普段他の人と一緒だったりするときとかは割とあっさりしてる、のだけど。二人だけのときとのギャップがなんとも。
「奈々子」
名前を呼ばれて、俯きかけていた顔を上げて、上げかけた悲鳴を慌てて飲み込んだ。近い、近い近い!気づかないうちに、浩輔さんに腰を抱き寄せられていたらしく、いつの間に密着?!
「こういうことしたくて、我慢できなくなるぐらい、俺は奈々子を好きなんだけど?」
「こっ、こういうこと、女の人にはしょっちゅう、」
「未だに謎なんだけど、奈々子の中の俺はどんな?」
「女っ…たらし」
「奈々子限定だったら正解」
嘘と言おうとして唇を塞がれた。
「好きになったらその子に一筋って、前どっかで言わなかったっけ?」
「何となく聞いたことはあるような気はするけど、」
「今まさにその状態だから」
そんなこと言われたら、もうどうしようもない。重くないのだと思う自分がいて、さらに抱きしめてくれる腕が心地よいと思う自分がいて、さらには、今の言葉を信じてる自分がいる。
「私だって、浩輔さん好きなんですからね」
あの時みたいに泣かさないで。そんな言葉はどうやら声に出す必要はないらしい。
fin
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