キミだけ


可愛くて、ふわふわで、ほわほわで。要するに、ベタ惚れてやつなわけ。

「まも?」
「大丈夫、ここにいるって」

ソファーで隣に座っている頭を撫でる。膝を抱えて座って、ただでさえ小さい体がより小さくなってる。これが奈々子じゃなかったら、この状況にきっとイライラして、めんどくさくなってる。

「なみだは…人間の作るいちばん小さな海です」

奈々子が泣いて掠れた声で発した言葉を、聞き逃すことなく掴まえる。少しでも気分転換になるのならば、と会話を引き伸ばす。

「……だれ?」
「ん、人魚姫。知ったのは寺山修司っていう人の本だけど」
「なんか、頭に残るね」
「そう、でしょ?」

まだ少し無理矢理だけど、奈々子が笑い声を上げた。どうしようもなく、顔が見たくて、自分はソファーを降りる。

「まも?」

どこかに行くとでも思ったのか、不安そうな声で呼ぶ。たまらなく、可愛いと思ってしまう。病気かも。

「顔、見たくて」
「や。今、だめ。可愛くない」
「人魚姫。君はいつでも可愛いよ」

ガタリ、と立ち上がってしまった奈々子の手首を左右それぞれ掴まえる。しゃがんだまま上を見上げれば、奈々子の顔を覗き込むのに丁度よくて、これからはこうやって顔を合わせればいいんだ、と一人納得した。

「まも、恥ずかしい」
「そう?」
「なんか、そういうゲームしてるみたいで、なんか、」
「うん」
「なんか、話かけてもらってるはずなんだけど、」
「いや?」

素直に小さく頷く奈々子は逆光気味のせいで、儚く見えて、消えてしまいそう。泡になってしまう人魚姫。

「ごめん。じゃあ奈々子はいつでも可愛い」
「違っ!呼び方じゃなくて、それはそれで、あのね、はっ恥ずかしい……」

語尾が泡になって消えていく。恥ずかしさのせいか、赤くなった頬はなんだか急に現実味を帯びてきた。

「くやしい」
「なにが?」
「まもがしゃがんでるせいで、私、顔隠せない」
「隠さないでよ。さみしい」

奈々子相手だと、どうもストレートな物言いにしかならないな。屈み腰になって口付ける。より真っ赤になった奈々子だけど、涙はもう止まってる。海はもう出来上がらない。良かった、と気付かれないように胸を撫で下ろした。



fin


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