だってそっちが
『 』
「そりゃあ神谷より人間できてますから」
『 』
「ドのつくSではないし」
苛々してきて、付けていたプレーヤーの音量を上げた。チラリとこっちを向いた奈々子だけど、電話を打ち切ることも、俺に言葉をかけることもなく、ただでさえあった距離をさらに取って会話を続けてる。
「嫌なんだもん」
『 』
「つか、神谷。明日昼ご飯食べに行こうよ」
『 』
「私より稼いでる分際でなに言うか」
むかつく。俺は、なんだよ?!電話の相手とは、俺と付き合い始める前から仲良かったのは知ってる。むしろそこの繋がりで俺と奈々子は出会ったわけだし。それにしても、最近、更に仲良くなってないか?
「うん、うん。じゃあ、それで」
ようやく電話を切った奈々子が横まで戻ってきた。
「大輔?人が電話してるときは音量下げたままに
「うるさい」
「ちょ、大輔?!なに、その態度!」
「態度?それは奈々子のほうだろ!」
自分の考えとは別に口だけが動いてる感覚。奈々子が言葉に詰まったようで、待ってやらなくちゃと思うのに、勝手に舌は動く。
「帰れ。それで神谷くんに愚痴でもなんでも聞いてもらえよ。仲良しなんだろ?もう俺に電話もメールもしてくるな、家にも来るな」
奈々子の片手首を掴み、強引に玄関まで引っ張る。抵抗されたけど、そんなのは知らない。言う言葉が見付からないのか、はたまた言う言葉はすでにいらないと切り捨てているのか。奈々子は何も言葉を発しない。
「ほら、帰れよ」
肩を押す。少し奈々子はバランスを崩しかけたけど、転ぶなんて程ではない。振り向いた奈々子が口を開いた。出てくる言葉は侮辱か懇願か罵倒か憐れみか。
「っ!」
口を開いたくせに。平手が飛んできた。
「最近、大輔、私、神谷しか、っく。ばかぁー!」
「俺が、なに?」
あまりにも奈々子が悲しそうで、突き放した体を今度は抱き寄せた。
「大輔、最近忙しくて、相談乗らせるの悪くて、一緒にいるなら楽しい話だけしたくて」
「うん」
「そしたら、相談できるの、神谷しか思いつかなくて」
「ごめん。奈々子、ごめん」
ぎゅっと抱きしめた。
俺の鳩尾に痛恨の一撃が放たれた。
「こっちの言い分聞かずに終わらせようとするな、ばかっ!」
力を振り絞り、もう一度謝ってから、重力に逆らわずしゃがみ込んだ。
fin
- 196 -