あまい旋律


メイちゃんが膝の上で丸まってしまった。広樹さんが溺愛してるにも関わらず、メイちゃんのお気に入りは私らしい。と、広樹さんが言っていた。

「溺愛しちゃうのが良くないのかなぁ?」

視線をメイちゃんから嘆きを漏らした広樹さんに変える。広樹さんのギターからスローテンポの曲が流れる。器用に動く指。一度教えてもらったのに、コードやらなんやら覚えられずに、ましてはころころと指の位置を変えることもできなくて、諦めてしまった。

「構いすぎてもストレスを感じる動物はいるけど、どうなんだろ?」
「奈々子ちゃんは?」
「私?私はどう思うか?」
「違くてさ。ストレス感じてる?」

頭の中はフリーズ。助けを求めてプリーズ。その間にもメロディーは流れていく。さっきまでは、緩やかな曲の中に切なさが混じっているように感じていたのに、いまはそれは消え、甘さのようななにかが広がっていく。

「ひひひひ、ひっろきさん?」

声が裏返った。丸まって眠ってしまっているメイちゃんは、熟睡してしまっているらしく、驚くことなく丸まったまま。

「どう?」

そうやって聞き直してくる広樹さんは、これは絶対、絶対、

「からかわないでください」
「そう?残念」

やっぱり。緩やかな旋律は少しスピードを上げて、明るく快活なイメージに変わる。それでも甘さは含まれ続けている。

「構いすぎても、溺愛しすぎても奈々子ちゃんはストレスに感じないんだったか」

視線だけじゃなく、首から上を勢いよく広樹さんに向ける。グルリという効果音、もしくはグワンという効果音が相応しいほどの勢いの良さだったと、自分で思う。

「だから好きでいてくれるんじゃないの?」
「それは、だって、あの、つまりそれは、」
「それは?」
「広樹さんの甘さは中毒になるんです!」

はっきりきっぱり言い切ってしまってから慌てて口を押さえたけど、それでは効果はすっぱりさっぱり発揮されない。メイちゃんはこれには流石に驚いたらしく、それでも名残惜しそうに自分の寝床に戻っていった。全くの反応がないのは余計に居た堪れない。名前を呼ぼうとしたら、笑い声がさっきの自分の叫びに変わって部屋に響いた。

「奈々子ちゃん凄い、凄すぎる」
「広樹さん!わ、笑わないで!」

広樹さんのギターの線を弾いていた指が最後の一音を鳴らして、曲が終わる。こっちに向かって伸ばされた手が、頭を撫でる。

「なら、もっと構って溺愛してもいいってことだ」

私も膝の上に残るメイちゃんの温度が名残惜しかった。



fin


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