愛は魔法
時と、場所と、ちゃんと選んでください!
心の中で叫んだ言葉は、あまりの強さで跳ね返り、胸が少し痛い。
「あれ?沈黙は肯定だよ?」
冗談なのか本気なのか区別がつかない。それは水滴だと思ったのが瞬間接着剤だったぐらい性質が悪い。
「い…や…です」
ギリギリの距離でギリギリ声を絞り出した。
「あらら残念」
そんな簡単に言われても信用出来ないです。
「ねぇねぇ。もっかい聞くけどさぁあー、
俺とイイコトしない?」
キスしない?から確実にハードル上がってますけど!?もっかい聞くけど、じゃないです!完璧に違う内容聞いてきてます!周りの方々、酒だの酒だの言ってないで助けて下さい!見渡しても見渡してもへべれけの酔っ払い。笑顔で距離を詰めてくる鳥海さんから離れる。離れた分また詰められる。後ろは壁。冗談っ!
「嫌?でも俺は割と本気よ?」
だからだから、だからっ!
「時と場所、その他諸々を考えて下さい!」
「奈々子ちゃんったら、だぁいたーん」
今のなにをどう解釈したらそうなるんだろう?
「考えたらいいってことでしょ?」
「や、そういう訳ではなくてですね、」
こっちはぶっちゃけ本気なら、関係を持つことを信じていいなら、信じたいんです。
ただ……他ならぬ鳥海さんだから。
「決めた。奈々子ちゃん、帰ろうか。はいはーい!俺達帰りまーす!」
流れについていけないまま店を出された。やっと理解して一言。
「お金っ!」
我ながら情けない。
「あー払ったよ?」
「鳥海さんがでしょう?私払ってないです!」
「だから奈々子ちゃんの分も払ったって」
「なら鳥海さんに払います!」
「いいから。彼女なら大人しく彼氏に払わせておけばいーの」
胸の痛みがすぅっと退いた。でもせっかく理解した状況にまた置いていかれた。
「か、の女?彼…しぃ?」
「奈々子ちゃんと鳥海くん」
本気ですか?って言いたいのに口が動かない。その間にも、ゆっくりと距離が縮まる。縮まる。
「関係をはっきりさせたのなんて初めてかも」
これ以上歩を進ませることは出来ない距離になった。
「ほら逃げなよ。奈々子ちゃん捕まっちゃうよ?」
言葉とは裏腹に首に腕が回される。
「逃げないの?」
唇があと少しで触れる。
「きっと…私の方が好きな気持ちはおっきいですから」
自分からその距離をなくした。
fin
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