あなただけで


ごめんなさい、ごめんなさい…繰り返し口に出す。生まれてきて生きていてごめんなさい。ごめんなさい、ごめんなさい。部屋の隅に蹲って、膝を抱えて、涙は出ない。
私が悪いから。両親と一緒にいると、私のせいで両親は喧嘩をしているばかりで、父からも母からも、疎んじられているような視線を浴びているような気すらして。ごめんなさい。私が出来のよくない子だから、家に居てもなにも、なにも、なにも喜ばせてあげられない子だから。いつだったか、母に生活感のない部屋だと言われた。私が普通の子じゃないから。ごめんなさい。
不意にチャイムが鳴った。私なんかの家を訪ねてくれる人がいるんだから、早く、早く出ないと。そう思うのに、足に力は入ってくれないし、俯いた首を持ち上げる力も出ない。非力で、使えない子で、ごめんなさい、ごめんなさい。

「奈々子?いるのか?」

その声にピクリと肩を揺らす。鍵は私が開けるまでもなく、あの人が持っているスペアキーで開いたみたい。

「奈々子?こんばんは」

声を出せない。怖い。怖くて、怖くて。

「大丈夫。ほら、こっち来い」

順一さんだっていうのを頭ではちゃんと理解してるのに。差し出された手。それを取ることが怖い。取った瞬間振り払われたら?やっぱりお前なんてイラナイなんて言われたら?私は、イラナイ子のはずで、私は、私ではいけなくて、居てはいけなくて、生きていてはいけなくて。

「奈々子。俺は奈々子に今すぐ触れれないと倒れそうなんだけど?」

それはダメ。私のせいで私なんかのせいでそれはダメ。そっと手を取れば、存外、力強く体を引かれた。

「奈々子、奈々子。奈々子、俺がいる」

さっきまで出てくる気配はなかったのに。目が熱い。涙がポロポロと零れ落ちるのがわかった。抱きしめられて、触れ合う部分から伝わってくる相手の体温が熱い。熱いのに、怖くもなくて、嫌でもなくて、嬉しくて。

「ごめんなさい。ごめんなさい。も、わかんなくて。私、生きてていいのかもわからなくて、お母さん、電話で、私、ごめんなさいって、謝るの、」
「俺は奈々子に出会えて、生きていてくれて、よかったと思うけど?」
「でも、」
「奈々子を必要としている人物がここにいる。俺が居るだろ?俺だけじゃ足りない?」
「違う…順一さんだけ、でいい。私、それだけで充分なの」
「大丈夫。俺も奈々子だけを愛してる」

必死に順一さんに抱きつく。充分過ぎるほど抱きついているのに、それでももっと与えてくれようとする順一さんに甘えてる。それでいいから、と順一さんが微笑む。

順一さんが居てくれる……今は、大丈夫。



fin


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