結局、つまりは


「知るか」

あっさりと言い放って、目の前の人物は背中を見せて歩き出した。本当はその後ろを追いかけていかなきゃいけないのだろうけど、竦んだ足は動きそうにない。胸の内では罵倒の言葉やら反論の言葉やら、いろいろな言葉が疼いているというのに。いつの間にか、人混みに紛れて背中は見えなくなっていた。

「帰ろう」

ポンと呟いて、踵を返す。数歩動いたところで腕を掴まれた。

「奈々子、なに勝手に帰ろうとしてんだよ」
「……勝手にって…いつ帰るかなんて私の勝手じゃない」
「あのな、」

掴んでいる手を振り払った。舌打ちの音が聞こえた。

「私の勝手だよ。それこそ、そっちの都合なんて『知るか』」
「あーそうかよ」

また背中を向けて一人歩いて行ってしまう。もう、勝手にするよ、勝手にしてよ。結局浩史を追いかけるでもなく踵を返した。

家に帰る気分じゃない。

ブラブラと何も考えずに歩いて、たどり着いたのは近所の公園だった。公園といっても、今時な親の反対でもあったのだろうか、ブランコと規模の小さなジャングルジムが申し訳なさ程度に置かれているだけだった。ベンチすら置かれていないとは。公園なんて、もう何年も来ていなかった。こんなにも変わるものなのか。それなら、付き合ってそれなりに日数を重ねてきた浩史との関係にも変わりがあるのだろうか?

好きなのに。

ブランコに座って小さく揺らすと、キィと甲高い音が上がった。公園につくまで、自分はどれだけフラフラしていたんだろう。どこをフラフラしていたんだろう。錆びの臭いのする吊り下げの鉄を掴んで俯く。そうやって今日のケンカの原因を思い出そうとしたけど、原因なんてとうに頭の中からどこかへ逃げ出してしまっていたらしい。

「奈々子。」

名前を、呼ばれた?まさか、ね。幻聴だよ。

「奈々子!」
「って、え?」
「一度で気付け!お前は自分の名前もわからないのか?」
「浩史?」
「以外に誰に見える?」
「なんで?だって、ここ、え?」

浩史とは一度もこの公園来たことなんてない。散歩と洒落込めるほど広くもないところなのだから。

「なんのための携帯だよ」
「けい、たい?」

言われてバックの中から探り出せば、ランプを点滅させている。慌てて開けば着信だけじゃない、メールまでも。

「探して、くれたの?」
「勝手にしろとは言ったけどな、いなくなってもいいとは言ってない」
「勝手にって、いなくなっていいっていうのと同じじゃ、」
「違う。泊りでディズニーとか、したいなら勝手にしろってことだろ。仕方ないから付き合ってやる」
「わかりにくいよ!」

ケンカの理由はそれだ。思い出せたよ、ありがとう。でもそう簡単には許してあげないんだから。
目の前でしゃがみ込む浩史。あ、なんか可愛い。

「あのな、」

なんだか言い難そうに。なんだろう?うっすらと顔が赤いような。

「あの後振り返ったらお前いなくて、知らねーおばさんでビビったんだからな」

仕方ないから、許してあげるよ。汗だくで探してくれたみたいだし。



fin


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