言の葉
スキと、言えなくなった。言いかけるたびに飲みこんで、がまん。
「拓篤、あのね」
「………アレ?続きは?」
「ごめん、やっぱりなんでもない」
あいまいに笑ってごまかしてみる。スキが言えなくて、くるしくなった。スキと言うのがくるしくて、言うのをやめたら、余計にくるしくなった。
「奈々子、あのさ、」
「なに?」
あぁ、またしでかした。スキと伝えたかったのに伝えられなかったあとは、どうしてか視線をあわせられなくて。せっかく、拓篤があわせようとしてくれるのに、にげてしまう。
「奈々子、俺は好きだよ」
なんでスキと、かえしたいのに、こたえたいのに、言葉が音になってくれないんだろう。ようやくでた言葉は、ごめんなさい、とちいさな音をたててきえた。
「え?」
みじかくぎもんを口にした拓篤に、しまったとおもっても、あとの祭。
「ごめんなさい、ってどういうこと?やっぱそういうこと?」
すぐにひていしたいのに、喉ははりついたみたいにカラカラで、ちがうの一言さえも音をだしてくれない。
「最近好きも言ってくんないし」
おこってる。おこってる、あたりまえ。泣きそうなのに、ふしぎと涙はでてこない。
「俺に飽きたんなら、好きじゃなくなったんなら早く言えよ」
いまにも立ちあがってかえってしまいそうな拓篤のふくをにぎりしめる。いきおいよく首をさゆうにふる。ちがうよ、ちがうんだよ。
「……今なら言い訳聞くけど?」
ながいちんもくがすぎて、拓篤からの一言。いま言わないとすべてがおわってしまう。
「苦しくて、嫌いになんてなるわけないのに、好きが苦しくて」
「奈々子?」
「好きって言い過ぎたから苦しいのかと思って、止めたら、余計に苦しくて」
「………うん」
「言おうと思って、そしたら今度は言えなくなって。悪いことみたいで、目合わすのが怖くて」
「奈々子、さっきのごめんの意味は?」
「好き、って返せなくて、ごめんなさい」
そこまではなせば、ようやく拓篤のからだから力がぬけてくれたのがわかった。そうしたら、せきとまっていた涙があふれだした。
「なんだ、俺を好きになりすぎたからじゃん」
「え?」
みじかいぎもんをだすのはこんどは自分。
「奈々子が俺を好き過ぎるのなんて知ってんだから、言えよ」
「…好き。好き、好き大好きなの。拓篤がね、好きだよ」
自分でもおどろくほど言葉はすんなりとでてきた。満足度まんてんなかおをした拓篤がかおをのぞきこんできて、ふれるだけのキスをしてくれた。
fin
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