キス=甘味=エール


泣きたい。というより泣いても今なら許される!

「奈々子ちゃん?!」
「もー無理っ!」

結局、抱きついて泣いてしまった。それが大体……一時間半前?……泣いたな。

「奈々子ちゃん、落ち着いた?」
「うん…」

わざわざ淹れてくれたらしいアイスティーを受け取る。カラン、と涼しい音をたてるそれは、泣いて体温の上がった体に、涙を流しすぎて水分の足りなくなった体にすうっと染み込んでくれる。

「………甘すぎ」
「えぇ?!ウソ?!ご、ごめんね!淹れ直す!」
「嘘。嘘。甘くておいしい。だから渉、いて」

ぎゅっと服の端を握ると、一回頭を撫でてくれて、渉が隣に座りなおした。

「も、ダメかもしれない」

泣いていいたせいで吐き出せなかった言葉を改めて。

「奈々子ちゃんなら大丈夫だよ」
「根拠は?」
「奈々子ちゃんを信じてるから。それが根拠」
「でも、無理だよ。上手くいかないことばっか」
「そうかな?」
「そうだよ!渉は私を信用しすぎだよ!」

渉に心配をかけたくないから、詳しいことを話してないのに、それなのに、なんで話もちゃんと聞かないままで。

「奈々子ちゃん?」
「渉が知らないだけで、私ダメな子なんだよ」
「そうなの?」
「じゃなかったらもっと余裕だよ」
「そうかな?」
「そうだよ!」

感情のままに言い返してしまって、凄くキツい言い方になってしまったのが自分でもわかった。

「……ごめん」
「奈々子ちゃん。あのね」
「……うん」
「素直にゴメンって言える子、ありがとうの言える子。それだけでいいんだよ」

渉と視線を合わせる。どちらも目を逸らさない。

「相手のために何かしてあげられる子、相手の立場で物事を考えられる子。それは凄いことだと思う」

渉の言葉が染み込んでくる度に、目が熱くなっていく。

「それらが自然にできて、さらに、もっともっとって頑張ってる子がココにいる」
「んっ…」

流しきったはずの涙は限界を知らないのか、また流れ出す。それを、いつ用意したのか渉がタオルで拭いてくれる。

「頑張ってるの知ってる。ちゃんと知ってる」
「うん」
「それでも、自分はまだまだなんだって思えるのは皆が皆できることじゃないと思う」

もう相槌を打つことができなくて、ただ頷くだけになってる。

「頑張ってるから疲れちゃうんだね。それは当たり前だよ。お疲れさま。」

体の向きを反転させて、しがみ付くようにして抱きつく。背中を撫でてくれる渉の手が、ひどく心地いい。

「本当にお疲れさま。奈々子ちゃんは疲れきるまで努力できるって、ちゃんと知ってる」

額と頬にキスが降ってくる。

「だから僕は奈々子ちゃんを信じてる。後もうちょっとなんだよ、絶対。もうちょっとだけ頑張るを続けてみよう?」
「頑張っる、ことっ、を?」
「うん。だって、もう充分頑張ってるんだからこれ以上なんてないでしょう?」
「ん…も、もっと、なんて、わかんなっ」
「うん。そうだよね。だから続けてみよう?きっとあとちょっとだから」

もっと頑張ろうっと言われなかったことが凄く嬉しい。涙は今度こそ止まった。

「奈々子ちゃんなら大丈夫だから。信じてる」
「うん。わかった。渉…ありがとう」

触れるだけのキスをする。明日からまた頑張り続けるための応援をちょうだい。何度か繰り返してから体を離した。

アイスティーが本当は甘すぎたということは黙っておこう。疲れた体と心に、甘いもの。



fin


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