大人で子供


年下だから、同じ場所に立てなくて、同じものが見えなくて、同じ想いを味わえなくて。拗ねても駄々をこねても怒っても泣いても、そればっかりはどうしようもできない。だから不安で、心細くて、心許なくて。

「私なんかでよかったんですか?」

ここ暫くの口癖を飽きもせずに繰り返す。最近はそれに対して返事はなくて、ため息と同時に寝室に引っ込んでいってしまう。いけないっことを言ってしまっているのはわかる。好きだと言ってくれてる相手の気持ちを、無碍にしてしまっているんだ。それでも言わずにはいられなくて。

「せめてあと5年早く生まれてたかったなー」

苦笑混じりに漏らす。そんなこと無理だよ。マイナスにマイナスに流れていく自分の思考を塞き止めることもできずにいた。今、裕行さんはどうしてるんだろう。ドアに鍵なんてないんだから、開けて行けばいいのに。その勇気がなくて、ドアに手がかけられない。このまま、ここにいてもしょうがないのかもしれない。……帰ろう。ドア越しに声をかける。

「裕行さん…あの、今日、もう帰ります。……ごめんなさい」

好きだと言ってくれたことを、信じられないくせに、手に入れてしまったものを離したがらなくて。独占欲ばかりが強い。そのうえ、年下『だから』と理由をつけて、分かり合うことを拒んで、それなのに、分かり合えないことに悲しんで。堂々巡りとはまさにこのこと。少し足早に玄関を出ようとしたら、携帯が震えて、メールの着信を告げる。今すぐ見なくてはいけない気がして、足を止める。

「奈々子がいいんだよ」

一瞬、メールに音読機能がついたのかと思った。真後ろに立ってる裕行さんに背中が触れそうで触れない。息遣いはしっかりと聞こえてくる。

「俺だってな。部屋に引きこもるぐれぇ不安になんだよ」
「うそ」
「嘘じゃねーし。俺が不安になるのはお前で、お前が不安になるのは俺で。相思相愛じゃん?」
「違います!私が不安になってるのは私の勝手で、裕行さんのせいじゃないです!」
「じゃあ俺が不安になったのも奈々子のせいじゃねーし」
「それは私が酷いこと言ったからで」
「あのなー」

1トーン低くなった声に身構える。

「俺の気持ちを拒否してもいいけど否定すんな。」
「え?」
「信じねーなら信じさせるまでじゃん?」

ゆっくりと腕が回されてきって、抱きしめられる。

「年齢差がなんだよ?んなのに不安になるなら次からドア開けろ」
「ド、ア?」
「お前から開けてくんの期待してる俺が馬鹿みてーじゃん」
「開けて、よかったの?」
「次からぜってー開けて来い。俺のご機嫌取りしろっつーの」

なんとなく言い換えられる言葉に気づいてしまって、オズオズと切り出す。

「もしかして、構えってことですか?それ?」
「っ?!………そーだよ、わりーか?!」

体を離して部屋の奥に行ってしまう背中を追いかけながら、笑みがこぼれてきてしまうのを止められない。

「私が背伸びしなくても、裕行さんもまだ子供みたいです」

本格的に拗ね始めてしまった裕行さんを宥めるのに必死になってしまった。



fin


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