形勢逆転


同じ高校の後輩らしい。よっちんの活躍を雑誌やらネットやらで知っていたらしくて、まさかこの広い東京で出会うとはと驚いてた。

「吉裕先輩」
「なに?」

二人の再会後、どういった経緯かすでに忘れたけど、俺らに紹介された。それから付き合うようになったけど、なんつーか、ねぇ。

「……それはお前、無茶振りか?」
「吉裕先輩に不可能はなかったじゃないですか」
「あれはお前の用件がしょぼかったんだ!」
「ひ、と、を、しょぼい言うなー!」
「だぁっ!お前がしょぼいとは言ってねーだろ、バカ!」
「はい、バカって言うほうがバカなんですー」
「奈々子、お前マジ高校ん時から変わってねーな」

気慣れた言い合い。よっちんが悔しそう。奈々子も俺といるよりも楽しそうで。なんだ、そうなんじゃん。…なにか、どこか、痛い。こんなもん、知らない。

「だって、伊達に女で先輩の親友やってないですよ?」
「あー…だな」

もう決定打じゃない?それ。苛々する。なんで俺が振り回されてんだ?いつもみたいに相手振り回して、楽しめればいいはずなのに。俺たち付き合ってんじゃないの?限界。立ち上がる。

「鳥くん?」
「浩輔さん?どうしたの?」
「ん?いやぁ?外の空気でも吸ってこようかと」

気にしないで、とイイ人ぶって席を離れる。外の空気吸って、こっちに戻ってくるつもりはないけど、と心の中で付け足す。奈々子の心配そうな目線を振り払うようにして店を出る。

「さーてと」
「帰る気ですか?」

吸えなかった煙草にようやく火をつけて、携帯灰皿に押し込んだ。人心地ついて、帰ろうとした。引き止められる。実際に服を掴まれた。

「……奈々子?よっちんは?」
「吉裕先輩にはちゃんと言ってきましたよ?」
「そうじゃなくて、」
「お金なら2人分渡してきましたよ?」
「そうでもなくてさぁ、」

まったく、どうして。

「なんで奈々子まで出てきてんの?」
「浩輔さんが心配だったからですよ?」
「なんで?」
「…もしかして、体調が悪いというより拗ねてます?」
「誰が?」
「浩輔さんが」

余裕ぶって笑ってんな。ってゆーか、本来なら俺の立場じゃない?それは。

「もー、浩輔さん!そんな眉間に皺寄せたら取れなくなっちゃいますよ?」
「奈々子」
「なんですか?大好きですよ、愛してますよ?」
「バッ、バカ!」
「愛を囁く彼女になんて暴言ですか、それ!」

ほんっと、調子狂わされっぱなしじゃない?

「安心してください。私が心底惚れこんじゃってるのは浩輔さんですから」
「よっちんの方が良かった、とか思うようになるかもよ?」
「んー…それはないですよ。だって吉裕先輩は親友!ですから」

奈々子があまりにも晴々と笑うから、思ってしまう。

「俺を振り回すのは、奈々子ぐらいだよ」
「そのぐらい愛がおっきいってことですよ」
「振り回される自分も悪くない、って思っちゃってるあたり重症だよ」

奈々子が握りこぶしに親指を立ててみせる。

「上等です!」

あぁ、やっぱり敵わない。



fin


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