ぷらす1人
言うタイミングがこれまた難しい。言って喜んでもらえるかが問題ではなくて。だって間違いなく喜んでくれるはずだから!そうでなく…こんなことをまさか自分が言うようになるなんて、恥ずかしいと言ってしまえばそれまで。ようは恥ずかしいんだよ!
「ただいま、奈々子。って、どうした?なにかあったか?」
「克幸さん?!う、あ、おかえりなさい。克幸さん。」
「うん。どうした?」
言葉が出てこない。どう言ったらいいんだろう?というより、言えるのか?
「あの、ですね、」
モジモジとしている様子から、緊急ではないことを察してくれたらしい。
「深呼吸。はい、落ち着いてー。」
うぅ…こんなんじゃ自分が不安だ。
「ちゃんとママできるかなぁ…」
「………奈々子、今なんて?」
「え?だから、ちゃんとマ……ほぁっ!?」
きっ気まずい沈黙。なにか言わないと、なにかなんか、
「私たち結婚してるんですよね!」
「いまさら?!」
「あぁああぁ、ソウジャなくてデスネ?」
「奈々子ちゃん、落ち着いて」
結婚してから、久しぶりにちゃん付けされた。そう呼ばれると弱いわけでありましてですね。
「……はい」
「よくできました。それで。どうしたの?」
落ち着いたはいいけど、やっぱり恥ずかしい。小さく手招きをして、ちょいと耳を拝借。
「赤ちゃん」
「え?」
克幸さんの動きが止まった、かと思えば、ゆっくりゆっくり顔がこっちを向いてくる。目がまん丸い。そこまで驚いた顔、滅多に見れないや。
「奈々子、もう、一回」
「えっと、赤ちゃん、できました」
はにかみ笑いをつけてみる。
「俺がパパ?!」
「そうですよ。えへへ。今なんと4ヶ月らしいです!」
抱きしめようとしてくれてたのに、克幸さんは怪訝な表情で、
「普通3ヶ月で気づくんじゃないの?」
「鈍くてごめんなさい…」
3ヶ月程度の異変じゃ気づけなかったんですよ。少し膨れてみせたら、ようやく今度こそ抱きしめてもらえた。
「奈々子に似るといいな」
「女の子か男の子かまだわかんないんですよ?」
「どっちだったとしても、奈々子に似れば可愛いだろ」
耳に柔らかい声が響く。男の子だったら、克幸さんの声に似るといい。男の子でも女の子でも、克幸さんの優しさを継げばいい。そんなことを考えてたら軽いキスが降ってきた。
「名前、なににしようか?」
あーあ、まったく気が早い。さっきまでの緊張はどこへやら。自分以上に嬉しそうな克幸さんに、笑みを零した。
fin
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