そういえば
｢これは？｣
｢……うまい｣
｢じゃあコレ｣
｢……うまい｣
｢もー、吉野さん。それだけじゃなくて！｣
｢んなこと言ったってうまいもんはうまい以外になにがあんだよ？！｣
｢甘さが丁度いい、とか一工夫あって、とか色々あるじゃないですか！｣
まぁまぁ、と保村さんが間に口を挟んできた。
｢吉野さんが好きかなーって頑張ったんだけどなー｣
｢感謝してます！だーから、うまかったっつーの｣
｢ホントですか？｣
｢マジだって。コレも、こっちのクッキーもうまかったって｣
その言葉で満足してあげましょう。
｢つか、奈々子料理うまい？｣
｢いまさらですか？｣
｢いや、いままで菓子の差し入れは貰ってっけど、ご飯系ってどうなの？｣
｢そりゃあ毎日やってますし、得意ですよ｣
｢マジで！？｣
｢信用ないんですか！？｣
｢そうじゃねーよ！｣
また言い合いが続く、というとこで保村さんが口を挟んでくれた。しっかり空気読んでくれる人だよなー。
｢あ、じゃあ今度カレー作れ｣
｢カレーですか？いいですけど｣
え？！と保村さんが声を上げた。どうしたんだろ。
｢うるせーよ、ヤス。奈々子ならいいんだよ｣
｢何をですか？｣
｢あぁ？別に。クッキーもう一個寄こせ｣
｢もう。…はい、どうぞ｣
いっそクッキーの袋ごと渡してしまおうか、と思ったけど、あえて袋から一つ取り出して差し出した。吉野さんの手が出てくるかと思えば、吉野さん口を開けてスタンバイ。しょうがない。クッキーを吉野さんの口の高さまで持ち上げる。素直に食べさせられてる吉野さん。なんか雛みたいだよなー、こういうのって。
｢奈々子は食わねーの？｣
ついでに保村さんにももう一つ手渡したところで聞かれた。うーん、と首を捻る。
｢家に残してある分もありますから｣
そう答えれば、吉野さんの手が伸びてきて、袋の中から一個、取り出した。口元にクッキーを押し付けられる。
｢口開けろって｣
｢あ、はい…｣
これ、する分には抵抗ないのに、される方だと照れる。私が吉野さんを好きだって自覚してるから、する方はもう抵抗力がついてるのかもしれない。でも、吉野さんが私を好きか分からないから、される方だと照れるのかな？
｢うまい？｣
｢私が作ったやつなんですから｣
｢俺が食べさせてやったのはうまいかってんの｣
｢お、おいしい、に決まってるじゃないですか……｣
素直に答えれば、自分も恥ずかしさで顔が火照るのが分かったけど、聞いてきた吉野さんも顔を赤くした。保村さんがまた絶妙なタイミングで言葉を入れてくれる。
｢二人とも好きですオーラ出してんのに付き合ってないの？そんな仲いいのに？｣
吉野さんと二人、顔を見合わせたり逸らしたり、忙しくなってしまった。
ｆｉｎ
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