あなたが好きよ
「たーくま」
テーブルに向かってなにかしている拓篤に、その後ろに寝転がりながら、腰に腕を回した。ぎゅっと抱きつけば、触れた鼻先を拓篤の匂いが擽った。
「はーあーい。なに?」
「別に特には」
「ふーん」
途端、拓篤の体が後ろに倒れこんできた。
「拓、重い、潰れるって!」
「この重さは俺の奈々子への想いだから」
「想いが重い!」
バタバタと暴れれば、ノロノロとした動作で退いてくれた。どうせならもっとキビキビとした動作で退いてほしかった、ということは胸の内に秘めておこう。離れていくギリギリまで香っていた拓篤の匂いが、離れたら離れたで寂しくなった。また起き上がってテーブルに向かっている拓篤に、また同じように抱きつく。
「奈々子?」
「うん」
「なに甘えてんの?」
「拓篤も甘えたい?」
「そうだな」
起き上がりこぼし、ではないけど、起き上がった拓篤がまた倒れこんでくる。今度は潰されないように、先に体を動かして避ける。
「避けるなよ」
「学習能力機能ついてるんだから避けるよ」
「そんな機能取っ払っちゃえよ」
「高性能じゃなくなるじゃん」
「大丈夫、奈々子に高性能は期待してない」
「そこは期待してよ」
もう何が言いたいのかもよくわからないけど、ただの戯れ言を繰り返すのが楽しく止まらない。仰向けに倒れこんだ拓篤のお腹の辺りに頭を乗せる。またフワリと匂いが香った。その匂いにつられたわけではないけど、触りたくなって、拓篤の頬に手を伸ばした。
「ん?」
「なんか、ほっぺ、良さそうだったから」
「良さそう?食べないでね?」
「食べないし」
「むしらないでね」
「……どうだろう」
「え?ありえるの?」
「どうだろう」
「うわ、すっげ不安」
「乙女的な冗談だよ」
「奈々子?どこが、乙女的?」
頬を撫でてみれば、予想以上に触り心地がよくて、面白くなって鼻筋も撫でてみた。擽ったそうに笑うから、悪戯心が強まった。指で、拓篤の唇を、撫でてみた。
「な、なに?」
思ってもみないぐらいに拓篤が動揺した。そんなに変なことだったのかな?
「だめ?」
「無自覚?」
「なにが?」
「奈々子、キスしていい?」
「なっ?!いきなり、なに?」
慌てて顔を上げたら、上半身だけを中途半端に起こした拓篤の顔が近くなった。
「………んっ。はっ、なに?突然」
「奈々子、唇触るのはキスしたいって意思表示だよ」
「うそ」
「どうだろう」
もう一回する?と珍しい拓篤の上目遣いが見れてしまって、二度目のキスを受けてしまった。三度目のキスは、こっちから仕掛けてやろうと思った。
fin
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