形成途中


部屋に一人。こういうときにペットでもいたら、寂しさはもう少しは和らいだかもしれない。けど、この部屋には白い猫もいない。床の上、クッションに正座を崩して座る。携帯の未送信メールには会いたい、の一言。送らないと寂しさはどうしようもならないのに、送る勇気がないなんて臆病にも程がある。それでも、送るのにどうしても途惑う。送っても迷惑にならにあかどうか気になってしまう。

「鈴…村さ、ん」

付き合い始めてそんなに時は経っていなくて。だから余計に迷ってしまう。片思いのときとは違う二人の距離が、まだ、わからない。未送信メールの文章を消して、別の言葉を打ち込む。これからお仕事ですよね?頑張ってください。そんな、他人行儀すぎるような文章。すぐに返信が来た。

『奈々子ちゃんは今なにしてんの?』

今日は仕事場の定休日。家に居ます、といった内容を送ってから、家の中にいるから寂しいのでは?と思いついた。とりあえず動いてみよう。冷やして作れるタルトにしようかな。市販のタルト台があるから、カスタードクリームだけ作って、あとは缶詰のフルーツがあったはず。よし、そうしよう!
作りながら考える。もし、鈴村さんに渡したら食べてくれるかな?喜んでくれるかな?美味しいって言ってくれるかな?そこまで考えて、かき混ぜていた手を止めた。少しは気を紛らわせようとしているのに、考えているのは気付けば鈴村さんのことばかりだ。

「毎日でも、会いたい」

そう思ってしまうのは、やっと付き合えるようになったからなのだろうけど。でもまだ1週間会えないだけでこんなにも寂しい。さっきの返信を打ってからは鳴らない携帯を見つめる。仕事、始まっちゃったのかな。

「ははっ……片思い、みたい」

両思いだということが信じられない。違う。信じてるけど、信じられない。鈴村さんを信じてる。自分を信じてない。考えを振り切るように、ボウルの中で止まったままだった泡だて器を動かす。カチャカチャと鳴らせば、少しずつ出来上がっていくカスタードクリーム。この恋は出来上がっていってる?

『夜行ってもいい?』

届いたメールを開く。返事を打っている間に次々と届く。

『なんか俺の片思いみたい』
『奈々子ちゃん切れ〜』
『仕事終わったら直行するから!』
『超人ダッシュ!』

あぁ、なんだ。ちゃんとゆっくり出来上がっていってる。寂しさが薄まって、嬉しくて涙が出てきて。

『あ』
『い』
『た』
『い』

夜になれば寂しさがなくなる。まだ混ぜ始めたばかりのこの恋は、まだもう少し、不安定。



fin


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