95:5の割合
「なにしてるんですか?」
「別に。なんにも」
「……俺の出てる雑誌の俺の出てるページを切り抜こうとしていて、なにもしてないんですか?」
そう言って、笑顔という気持ち悪い顔をした相手の鳩尾に、裏拳がクリーンヒット。ぐっ、と呻いて息を一瞬詰まらせたらしい相手は放っておこう。
「あ、あの、奈々子」
チッ、もう復活したか。やっぱりここは首筋に向けて、素人がやったら意識を失くすどころか、ちょっと生命の危機にまで発展するかもしれない手刀を繰り出すべきか。
「なに?智和」
「照れ隠しだとしてもですね」
振り上げた手首を軽々と掴まれた。憎たらしい。
「バイオレンス過ぎませんか?」
「そんなことないし」
「ツンデレですか?」
また笑顔を浮かべる相手に一言、やっぱりここは一言伝えるべきなんじゃないかと思う。一息吸い込んで、
「死にさらせぇ!!」
言葉と同時に両手で智和を突き飛ばす。体勢を崩した相手を横目に脱衣所に入る。鍵を掛ける。カチリ、と無常なまでに冷静な音がして、コンマ何秒かの差でドアノブがガチリと拒絶の音を立てた。
「………奈々子、ここを開ける気はないですか?」
「ない。」
「じゃあ、謝ります。すいません。だから出てきてください」
「別に……謝れなんて言ってない」
「どうしたら出てきてくれますか?」
「知らない」
手に持ったままだった雑誌に目を落とすと、ドアに寄りかかる。外開きのドア。少し考えをめぐらせる。雑誌の中では無駄にポーズを決めてる智和。ドアの反対では多分、計算もなにもしてない立ち姿で困ってるだろう智和。雑誌の智和のページだけを雑誌本体から破り取る。端は後で綺麗に揃えてやろう。ゆっくりと鍵を外す。相手はそれに気付いてない。
「奈々子、天の岩戸ですよ、これじゃあ」
「いいよ」
「はい?」
「ドア、開ければ?」
ドアに背を預けたまま、智和にそう答える。こっちの事情を知らない智和がドアを開けた。それも勢い良く。勢い良く、私は後ろに倒れる。
「なっ!ちょっ!」
「ナイスキャッチ」
こける、なんてことをせず、後ろから抱きしめられるようにして支えられた。
「これは、全てを俺に捧げてくれるということですか?」
「今一度繰り返してみろ」
命ないと思え、と続ける。智和がちょっと泣きそうな顔になったから、ツンもこれぐらいにしてあげようかな。
「泣くんなら帰れ。雑誌があるから別にいいし」
デレにはなれなかった。
fin
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