偶然にこんにちは


一人ふらりと昼食に出てみた。気まぐれに決めたお店で、まさかの偶然があるということを実感した。案内に出てきてくれた店員さんに断り、ボックス席に近づく。こんにちはー、と気の抜けた挨拶をしながら顔を覗かせる。

「奈々子ちゃんじゃん。なに、偶然?」
「え、え?な、なんで?」
「すごい偶然。渉くん大丈夫?」
「渉のことは気にしないでいいから」
「ちょっと拓!」

渉くんと拓篤くんがいた。『渉は気にしないで』発言でじゃれ合いのような言い合いを始めてしまった二人の横で思った。店員さんの案内を断ってしまって、自分はドコに座ればいいんだろう?薄ボンヤリとしかけたところで、渉くんと拓篤くんがじゃれ合いから戻ってきてくれた。

「奈々子ちゃん俺の横座りなよ」
「拓!え、う、あのさ」
「渉のヘタレ。ほら、奈々子ちゃん。こっちこっち」

拓篤くんに手を引かれるまま、その隣に腰を下ろす。斜め前に座る渉くんは、何か言いたそうにしてる。

「なに頼む?はいメニュー」
「あ、ありがとう。……拓篤くんは何食べてるの?」
「俺?パスタ。たらこ」
「渉くんは?」
「エビドリア」
「んー迷う。待ってないで食べちゃっていいよ?」
「いいって。待ってる」

拓篤くんにニコリと笑顔を向けられて、一瞬固まる。心臓に、悪い。人の顔をちゃんと見て話せ、と教育されてきたからついついしっかり横向いちゃったけど、隣に座ってるだけあって、距離が近い。メニューで自分の顔を隠すようにして決めたメニューを告げる。それから何故か拓篤くんとだけ会話が弾む。渉くんは何かを気にしたように黙ってる。それに気付いていないのか、わざとなのか、喋り続ける拓篤くん。

「それにしてもさ」

突然の振りに思わず首を傾げた。苦笑しながら拓篤くんが左手を伸ばして右頬に触れてくる。なんというか、恋人みたいな自然な動作過ぎて、うっかり許してしまう。

「奈々子ちゃん、ほんっと、可愛いよな」

頬に添えられたままの手と言われた内容に頭がパンクしそうだ。とりあえず、食べ終わっててよかったってことしか感じない。

「あれ?無反応?それとも意識しすぎた?」

耳元で言われて、反射的にギュッと目を閉じたら、イタッという声が聴こえた。今の、拓篤くんの声?恐る恐るに目を開ければ、頭をさする拓篤くんと、なぜか顔を真っ赤にした渉くんがいた。真っ赤に顔を染めながらも渉くんが拓篤くんを睨む。降参とばかりに拓篤くんが片手を挙げる。

「奈々子ちゃん、や、やっぱりこっち、座る?」
「とかなんとか言いつつ、今の渉もやりたいだけだよ」
「ちがっ!拓!バカ!奈々子ちゃん、違う、違うからね?!」
「………全力で否定されると疑いたくなるよね」
「えぇー?!え、違う、じゃなくて、や、ほんと、違くて、」

また拓篤くんにヘタレ、と言われて、また二人でじゃれ合い兼言い合い始めてしまった。でも今回はこっちが意識を飛ばす前に拓篤くんの携帯が鳴って、じゃれ合いが終わった。もともとこの後用事があったらしく、拓篤くんが先にお店を出ていった。拓篤くんが居た席に移って、渉くんの正面に座りなおす。一瞬俯いた渉くんが何か決意したように、でも恐る恐る顔を上げて。

「奈々子ちゃん、拓と浮気とか駄目だから」
「渉…くん……」
「奈々子ちゃんは、その…俺の、なんだし」

当たり前なのに、声を出すのが気恥ずかしくて、ただ頷いてみせた。二人顔を赤くして向かい合い。向かい、愛?



fin


- 222 -

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -