さまーらすと


都会特有の太陽の熱とアスファルトの熱と、その他諸々の温暖化へ向けた悪影響の熱とで狂ったような暑さから逃げるように、店に入る。これだから夏は苦手だ。嫌いというわけではない。だってアイスやらスイカやらかき氷やら美味しい季節だし。店の中でシルバーのアクセやら服やらを物色。OLIVEの服好きなんだよね。あ、この服かわゆい。ふとアクセに視線を動かせば。あーにゃんこー!かっかわいい。思わず全力で財布の中身と相談。

「その猫のネックレス、買うの?」
「うん。でもちょっと、財布がOKだしてくれないんだよねー…え?」

今、私、誰かに話しかけられた?え?脳内のお友達?いや、そんな電波な子に自分なった覚えないんで遠慮します。じゃあ誰?ぐるん、と首を回す。知らない男の人。

「あの、失礼ですが、どちら様でしょう?」
「あ、そっか。なんか凄い必死な顔してたから声かけちゃった」
「はぁ」
「どうも、紀章っていいます」
「紀章、さん?紀章、なにさんですか?」
「その前に君は?」
「あ、そ、そうですよね。篠崎奈々子っていいます」
「奈々子ちゃんねえ。よろしく。で、それ買うの?」
「買いたいのは山々なんですが、持ち合わせが少ないので我慢しようかと」

ふーん、と呟きつつ紀章さんはそのネックレスを手に取ると、おもむろにレジに持っていってしまった。人が買いたいけど我慢と言ってる横で買うのかよ。…帰ろう。そう思って背を向けたら名前を呼ばれた。

「奈々子ちゃん、もうちょっと待って」

その声が今さっきまで話していた声と全く違う。だから思わず足を止めてしまった。レジで会計を済ませた紀章さんが戻ってくる。そういえば下の名前聞いてないな。紀章って珍しい苗字だよね。

「ん?ぼんやりしてどうしたの?」
「あ、いえ。あの、なんですか?」
「はい、どうぞ」

渡された袋は、今の今紀章さんがレジで受け取ってたもので、その中身はもちろんにゃんこのネックレスで。わけがわからない。

「持ってろ、ってことですか?」
「あげる」
「もらえないです」
「買っちゃったし、俺はつけないし。いらないって言うなら捨てるから」

爽やかにもったいないことを言われて、もったいないオバケは怖いから貰うことにした。

「で。奈々子ちゃん。ご飯食べた?」
「いえ、帰ってから何か簡単に食べようかと思ってます」
「じゃあ俺と食べようよ」
「初対面ですよ?」
「でも、知らない相手ではないじゃん」
「私、紀章さんの下の名前知らないですもん」
「紀章が下」

びっくりし過ぎて声が出ない。むしろ、声を出そうとして咽た。

「びっくりさせ過ぎた?悪いな。じゃ今日は大人しく引き下がるか」
「そ、うして…はぁー。そうしてください」
「じゃあ、コレね」

名刺?名前、と携帯番号と携帯アドレス…のみっ!?仕事とか書いてないし。えーっと、

「谷山紀章、さん?」
「そ。で、奈々子ちゃんのアドレスは?」
「……嘘ありですか?」
「……嘘なしですね」
「…どうぞ。番号までは教えられないですから」

じゃあ、俺は先に帰るから。とすれ違いに耳元で、

「俺の仕事、わかったら連絡してよ。もちろん俺からも連絡するから」

その3日後には自分から連絡していた。それきりにしておけないぐらい、印象が強い人だったから。もちろん、別れた次の日にから早速紀章さんから連絡が来ていた。

夏から始まる。夏の出会いと別れ。そして再会は秋になってから。



fin


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