乱入者G
「なぁ、アレ知んねー?」
「アレ?」
「アレ…はアレだっつーの」
………さっぱりわからない。台本?財布?携帯?は、すぐそこのテーブルに全部纏めて置いてあるし、車の鍵…も、今日は必要ないし。なんだろう?
「裕ゆ」
「あ、あった」
!!!!それは「あった」じゃなくて「いた」だし、黒いエナメル生物!サザエさんからタマを借りてこなきゃ!ってそんなまどろっこしいことやってられない!っていうか非現実なうえに、ネズミじゃないから意味ないし!ワンツッコミ入ります!というか、ワンツッコミさんきゅー私!
「馬鹿バカ裕行!アレじゃわかんないじゃない!」
「だって奈々子、お前本名言ったら怒んべ?」
「イニシャルGとか、アレ以外にあるじゃない!」
「長い、面倒」
「私のために!」
「ワタシぃ、日本語ワカリマセーン」
「いまさら何言って!こここここここっち来る!」
カサカサ動いてる!ありえない!有り得ないアリエナイ!
「裕行!」
ため息吐いて、Gと一緒にこっちに来る。二人の間にG。ロミジュリのお家騒動より、よっぽどコッチのほうが障害として大きいって!涙目になりつつ、伸ばされた裕行の腕を掴む。次の瞬間に視界は真っ暗。裕行の肩口に顔を押し付けられていた。叩いた音もしなかった。耳元で囁かれた言葉に、聴覚全部持っていかれたから。
「終わり。これでいいんだろー?」
Gのいた形跡は、まったくもって跡形もない。目の前の男は、本当に嫌になるぐらい男前。
ただ、あえて文句をつけるなら、
「もっと早くやっつけといてよ!」
「だぁから見失ってたんだよ!」
「嫌がらせ?!嫌がらせなの?!」
「次から手ぇ出さねー。」
「すみません、助かりました、ありがとう」
我ながら低姿勢。まぁ、人間謙虚なのはいいことだ。……うーなんかまだ記憶の海馬にGの姿が残ってるような。
「奈々子、奈々子」
「なにぃ?」
呼ばれてしがみついたままだったのを思い出したけど、今更?超至近距離。視線を少し上向かせれば、あと3センチでキスできそう。
「さっき俺が言ったの覚えてるか?」
…!覚えてます!覚えてますから、離れたいから、腕に力を入れるの止めて!
「これだけ近ぇーとイロイロ、したくなるよな」
二度三度繰り返さなくて、結構、です!
「離れる!今すぐ離れる!」
「あー?いや、もう無理だから。───観念しろよ?」
fin
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