一揃え
枕元で鳴り響く携帯を、枕に顔を突っ伏しながら手探りで探す。でも、目的の物を探し当てる前にハタと気づく。私の携帯、プリインストールされてる黒電話の音になんて、なに一つ設定して…ないよ?諦めて体を起こす。音はまだ鳴ってる。携帯を探し出すと、ご丁寧に同じ物が2つ綺麗に揃えて並べてある。とりあえず光ってるほうに電話かかってるみたいだし…出るか。
「もしもし?」
「あれ?奈々子?もしかして携帯そっち?」
「潤。もしかしなくてもこっち」
電源ボタンをとっとと押して、たった今かかってきた通話記録を確認する。
自宅、と表示されてる。それは言わずもがな、この家のこと。
携帯を握ったまま、ベッドの上で放心していれば、音なくドアが開いて潤が入ってきた。
「奈々子、飲む?」
「…ん」
渡されたマグカップに口付ける。黒褐色の液体を流し込めば、幾分かは目が覚めた。
「起こしちゃったな。ごめん」
「ん。だいじょぶ。携帯、迷子?」
「うん。この間の奈々子みたいに冷蔵庫かな、とか思ったんだけど」
「う…忘れて、ください」
いじわるだぁー、と声を段々フェードアウトさせながら、上半身は再びベッドの上に戻っていく。
「今日仕事は?」
「夕方から。…だから午後んなったらパジャマ買いに行くから」
「今着てるのでいいじゃん」
「あのねー、潤くん」
「うん」
言いながら、もそもそと毛布を抱き寄せる。自分の携帯を手に取って、にんまりしている潤は、何を言われるか、絶対気づいてる。
「私、パジャマない」
「着てるじゃん?」
「違う言い方してあげるねー」
「うん」
やっぱり起き上がる。
「な、ん、で、潤くんは上半身真っ裸なのかなー?」
「奈々子が俺の着てるからじゃない?」
あぁ、重たい空気。主に私が。
「歯ブラシもシャンプーもコップもお皿も、ちゃんと私の分は買い増してくれた。それについては素直に感謝アンド喜んでるよ」
「よかった。奈々子ちゃんにそう言ってもらえると嬉しいな」
くっ、営業声使いやがって!
「今日こそ絶対パジャマ買いに行くっ!」
「あははっ。じゃあ今日は外出、というかベッドから出れないようにしてあげようか?」
笑い声と笑顔と言ってる言葉とが合ってない!爽やかに見せかけて全然爽やかじゃない!
「同棲の醍醐味じゃない?パジャマの半分こ」
逆らえ、ないっ。がっくりとうなだれるしかなかった。
fin
- 228 -