期限は決まった
「相談に乗れ」
「……お前、それは他人に頼む態度じゃないとわかってるか?」
「いいから黙って相談に乗れ」
「はぁ。どうせ奈々子さんのことだろ」
「お前があいつの名前を呼ぶな。気色悪い」
「お前な…」
話していれば、杉田がなにやら携帯をいじっているのが目に入った。人の話を聞いてるときに、他の事に気を取られているなんて、コイツにしては珍しい。
「なぁ、中村」
「なんだよ?」
「今からスペシャリストが来るから、その人に相談乗ってもらえ」
「は?」
放心してるうちに、杉田は店を出ていく。入れ替わりに杉田のいた席に人が座る。人でなかったら一体なにが座るというのか俺にもわからないが。
「なんだよ、中村。お前まだ篠崎と付き合ってねーの?」
「なんですか、吉野さん。その独断と偏見に満ちたような聞き方は」
「はぁ?だって俺、篠崎の気持ち悪ぃけど知ってっから」
「なんでですか?」
「睨むなってーの。だーかーら、俺は篠崎から相談されてんの」
ため息が出そうだ。なんでよりによって。奈々子のやつ。
「なぁ、アイツのこと名前で呼んでんだろ?」
「そうですけど、それがどうか?」
「アイツはお前のことなんて呼んでる?」
「まぁ、名前で呼ばれますね」
何が言いたいんですか?と口に出す前に、吉野さんがニヤリと笑って席を立つ。
「なら分かりきってんじゃねー?普通好きじゃねぇ相手のことなんて名前で呼ばねーだろ」
反論するより早く、ヒラヒラと手を振って帰っていく。何しに来たんだ、あの人は。テーブルに両肘立て頭を抱える。くそ、杉田のやつ。
「悠一?」
幻聴か?幻聴まで聞こえてくるくらい精神ダメージは壮大だったのか。
「悠一!」
「は?」
「は?じゃない!」
「奈々子?なんでお前が?」
「吉野さんと一緒に来たから」
杉田っ!スペシャリストじゃなくてトラブるメーカーじゃないか!
「迷惑だった?」
「いや………」
「悠一?」
「なぁ」
「なに?」
覚悟決めるしかないって?しょうがない。
「出るぞ」
「え?あ、うん」
強引に手を引いて店を後にする。さらに強引に奈々子を家まで送る。
「押し掛けたのに送ってもらっちゃって。ありがとう」
「別に。奈々子、」
「なに?悠一」
頭を引き寄せて、囁く。
「奈々子が好きだ。俺は付き合いたいと思ってる」
その一瞬ですぐ手を離す。顔を真っ赤にした奈々子に「また明日」と、背を向ける。返事の期限は明日まで。
fin
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