今はまだ


「あーちょっと待って!待ってったら待って!」

後ろから抱き着いて、帰ろうとするのを引き止める。抱きつかれた当人は、いつものことだと涼しい顔で振り返る。隣にいた人物はギョッとした顔をしながらも、なんとか笑顔で帰っていった。悪いこと…したかな?

「奈々子?どうしたんだよ」
「買い物、付き合ってー」
「何買うんだ?」
「服」
「…俺にそれに付き合えと?」
「そう」

ニコニコと笑顔で言えば、相手はハァと短く息を吐いて、わかった。と応えてくれた。肩を並べて歩いて、フラフラをお店を行ったり来たり。

「これは?」
「女の子女の子し過ぎてないか?」
「だよねー。うーんと、」
「奈々子、これは?」
「…孝宏……だんだんめんどうになってきてるでしょう?」
「……少しな」

じゃあ隣で男物の見てくれば?と促す。すぐに見えなくなる背中に、なんだか寂しさを感じて、慌てて首を振る。周りからはよく兄妹みたいと言われる。自分たちも言葉にださないけど、そう思ってる、はず。はず?はずってなんだ?いや、好きだよ?でも、多分それは友達としてだろうし…。なんだかモヤモヤしてきたぞ?とりあえず、すでに買うことに決めていたインナーの会計を済ませて店を出る。

「遅い」
「…いや、孝宏がきっと早い。なに?お店見てなかったの?」
「気づいた。別に今俺は服を買う需要はない」
「……需要ときたか」

天然?天然なのか?さすがの私もそんなことは考えないぞ?なに、それとも私が間違ってる?

「もうそれで終わりでいいのか?…奈々子?なんだよ、難しい顔して」
「え?難しい顔してた?」
「ああ。不細工な顔してた」
「失礼な。で、どうしたんだ?」

そうか、モヤモヤしてるなら聞いてしまえ。

「孝宏は私のことどう思ってる?」
「は?………奈々子は?」
「さっき考えたんだけどね、」
「さっき?」
「友達だとは思う」
「それは思っててくれないと本当にただの他人だな」
「好きなんだよ」
「そうか」
「でも、それって、なんの好きなのかよくわかんないんだよね」
「俺も奈々子を好きだけど」
「うん」
「兄妹みたいな感じだとは思ってるけどな」
「そう、だよね」
「恋、なのか、微妙なところだよな」
「そうなんだよね」

続く疑問は果てしなく。二人で首を捻って唸ってしまった。出た結論は、

「とりあえず、今日は帰るか」
「そうだね、そうしようか」

まだ、もう少し、先延ばしの関係。



fin


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