痛いの痛いの


叫び声と「あっはっはっはっはっ」という高笑いが木霊している。ちょっと、というか、かなり、ドアを開ける寸前で躊躇が生じた。声に、聞き覚えはある。聞き覚えがあるだけに、開けるのが怖い。ゴクリと生唾を飲み込む。緊張の糸が張り詰める。ドアノブに手をかける。

ガチャリ。

ガチャリ?私の手は、ドアノブにあと数ミリで届く位置で止まった。あまりにもタイミングが良すぎて、開いたドアを呆然と眺めてしまった。もちろん、外開きだったドアは私の方に向かって開かれるわけでありまして。

ゴン

という鈍い音が廊下一杯に響いた。出てきた人物も、確かに思い切りよく頭をぶつけた私も、なんだか、ただ呆然とっしてしまった。えーと?叫び声は、確か、うん、昨日先に収録を済ませた人の声。うんうん。で、高笑いは目の前の人の声。入れ終わったのかな。なんで、ドアを開けるのか躊躇ったのは、次には私の声が入っているからで。自分の声は、やっぱり商売道具だし、嫌いではないのだけど、自分の声のはずなのに、なんだか苦手だ。うん。

「……奈々子…平気、かよ?」
「………うん」

タイミングが悪すぎて、なんて言ったらいいのか、自分でもよくわかりません。それは裕行にしても同じなようで。どちらかともなく手を繋いで建物を出る。もちろん無言。あ、なんか、なんか、

「おでこ、痛いかも」
「遅くね?」

なんか、意識したら、これって、これって

「痛い」
「わ、悪かったっつーの!」

裕行のせいだけではないのだけど。ジンジンと痛くなってきたおでこを、自分の手のひらで覆う。さらにその上から裕行が手を重ねる。重なった、手。試しに一番下にある自分の右手を瞬時に引き抜いて、一番上にあつ裕行の手を叩こうとしてみた。自分の左手も避難をさせる。が、裕行の両手にも避難された。

バチン

自分で自分のおでこを叩く結果になった。ただでさえ痛かったおでこが尚更痛い。より涙目になった私と、目を丸くして、驚いている裕行と顔を見合す。

「や…知ってたけどよ、馬鹿だろ」
「やってみたくなっちゃうのが人間の性でしょう?」
「んな性なんか聞いたことねーし」

驚きすぎて淡々とした話し方になってしまう。どうやら裕行もそうらしい。

「傍から見れば俺らガチでアホっぽいと思わねぇ?」
「お、思いたくない」

ドアにぶつかられた上、自分で叩いてしまったおでこは、まだ少し痛い。

「とりあえず家帰って冷やすか」

さらりとおでこを撫でていく裕行の手は気持ちよかった。少し痛くなくなった。



fin


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